
続きまして、長引く咳の主要疾患の1つ、COPDについてお話します。
皆さん、「COPD」という言葉、聞いたことはありますでしょうか?これまでお話してきた喘息と異なり、聞いたことがない方も多いのではないでしょうか。
COPDは正式には「Chronic Obstructive Pulmonary Disease」、日本語で訳すと「慢性閉塞性肺疾患」と呼ばれています。
原因は……?
そう!タバコです!
このCOPD、巷では「タバコ病」とか「肺気腫」とか「慢性気管支炎」といった、いろんな名前で呼ばれています。(実は完全にイコールではないのですが、詳しい話はやめておきます)
タバコと聞いても「あぁ、タバコね~。吸い過ぎたら肺に悪いんでしょ?」ぐらいの印象かもしれませんが、実はCOPDの有病率や死亡率は世界的にも年々上昇傾向で、2019年のWHOの調査ではCOPDはなんと死因の第3位だったとのことです。(1)
以前日本で行われた疫学調査(NICE study)によると、日本人のCOPD有病率は8.6%で、男性および高齢者に多いことがわかっています。このスタディによる見積もりでは日本に約530万人のCOPD患者さんがいると推定されています。(2)結構、多いですよね(汗)
ここで、COPDの定義についてみてみます。本邦のCOPDガイドライン2022を見てみると…
「タバコ煙を主とする有害物質を長期に吸入暴露することなどにより生ずる肺疾患であり、呼吸機能検査で気流閉塞を示す。気流閉塞は末梢気道病変と気腫性病変がさまざまな割合で複合的に関与し起こる。臨床的には徐々に進行する労作時の呼吸困難や慢性の咳・痰を示すが、これらの症状に乏しいこともある」(3)
…なんか、なんというか…定義にしては長すぎると思うのは私だけですかね?(笑)
とりあえず、この定義を1つずつ順番に説明していきますね。
まず、「タバコを主とする有害物質」とありますが、日本ではほぼ100%タバコが原因とわかっています。タバコを長期的に吸入することで気管や肺に炎症が起き、気流閉塞が起きるわけですね。喫煙者の15~20%がCOPDを発症するとされています。
この「気流閉塞」という言葉、実は喘息のコラムでも少し登場しています。
呼吸器の1つ目のコラム、喘息の定義の箇所で、「アレルギーの炎症が気管でずーっと起きてて、そのせいで気道が狭く細くなってて、気道が過敏になってるから、ちょっとした刺激で咳が出てしんどいよ」というお話をしました。(覚えていますか?)
実は喘息とCOPD、機序は異なるものの「気道に炎症が起きて、気流閉塞が起きる」という点は同じなんです。ですので、次回お話しますが、COPDに対する吸入治療薬の中には、喘息でも用いられる(適応がある)ものがあります。
さて、次です。
「気流閉塞は末梢気道病変と気腫性病変がさまざまな割合で複合的に関与し起こる。」
これもなんだか難しい内容ですね。
タバコの煙が肺内に入ると、中枢気道(口に近い太い気管支)から末梢気道(気管がたくさん分岐した細い気管支)、そして肺胞(肺そのもの=肺実質=スポンジのような組織)と様々な場所に炎症がおきます。
その炎症が起きる場所によって、中枢気道では粘液腺が壊れ分泌物(痰)が増加し、末梢気道では気管が細くなって気流制限が起き(ヒューヒュー)、肺胞では肺胞壁が破壊され気腫(肺がなくなってスカスカになること)だらけになります。気腫になった部位では、吸った酸素と血中の二酸化炭素の交換ができなくなり、二酸化炭素が身体にたまり、労作時の息切れに繋がります。
これが上で述べた「気道病変と気腫性病変がさまざまな割合で複合的に起き~」ということです。(冒頭でお話したCOPDの別名「慢性気管支炎」や「肺気腫」は、この気管か肺胞どちらがメインでやられているか、を反映した表現とでも思ってください。)
そして定義の最後の文章、「臨床的には徐々に進行する労作時の呼吸困難や慢性の咳・痰を示すが、これらの症状に乏しいこともある。」についてです。
ここまでお話すれば、このようなタバコによるダメージ(炎症)で、咳や痰、息切れが起きること、吸い続ける限り悪化することは想像に難くないでしょう。特に息切れに関しては、坂道や階段昇降などの体を動かした時、つまり「労作時」の息切れが特徴とされています。安静にしている時はあまり自覚症状がないけど、ひとたび動いたり少し運動するととたんに苦しくて休み休みになってしまう、という症状です。
そしてもう一つ問題なのは、「これらの症状に乏しいこともある」という点です。
ここまで述べた咳や痰・息切れなどの症状は、ある程度COPDが進行するまで症状が出ないことがあります。しかし、喫煙している限り水面下では気管や肺の炎症・ダメージは進行しています。そして、症状が出た時には時すでに遅し、呼吸機能が大きく低下している…なんてことも多いです。特に肺胞がやられた「肺気腫」の状態になっていると、もう喫煙をやめても元の状態の肺には絶対に戻りません。
さて、ここまで、COPDの定義に沿って説明してきましたが、何となく理解できましたでしょうか?実は、この定義で述べた肺の症状以外にも、COPDには様々な全身の合併症が存在します。これについてはまた後ほどお話したいと思います。
次はCOPDの検査についてです。
喫煙者で、これらの肺の症状がありCOPDが疑わしい場合、まずは呼吸機能検査や肺の画像検査(レントゲンやCT検査)を当院では行っています。
呼吸機能検査(スパイロメーター)は喘息のコラムでも名前だけ出てきましたね。「肺年齢の検査」といえばイメージが湧くでしょうか。筒を咥えて、息を思いっきりフーっと吐いて、肺活量(肺のボリューム)や1秒量(=最初の1秒間でどれだけ吐けるか)を見る検査です。
ちなにに、思いっきり息を吐いて検査した際の肺活量をFVC、1秒量をFEV1、そしてこの1秒量の肺活量における割合を1秒率(FEV1%)と略します。検診などで呼吸機能検査を受けた人は書いてあると思うので是非見てみてください。
COPDが進行している人は、気流(気道)閉塞により特に息を吐くスピードが落ちるとされます。イメージとしては、思いっきりふー!っと吐きたいのにまるで細いストローを加えてふ~っと弱々しくしか吐けない、そんな感じです。その結果、上記で述べた1秒量および1秒率が低下します。
COPDガイドラインにはCOPDの診断基準も記載されており、一応ご紹介すると、
①長期の喫煙歴などの暴露因子があること
②1秒率(FEV1/FVC)が70%未満であること
③COPD以外の気流閉塞を来しうる疾患を除外すること
とされています。(3)
①、③はまあその通りなんですが、この②「1秒率の低下」が気流閉塞を示唆する主要な基準になります。ただ、この数値が低下している場合はすでにある程度病態が進行している状態ですので、この基準に該当しない方でも注意が必要だと個人的には思います。
当院では呼吸機能検査やCT検査も可能です。喫煙者・息切れの症状がある方は是非早めにご相談くださいね。(禁煙外来もやっています)
さて、長くなりましたが今回はここまで。
COPDは、実は大多数の方が未診断、未治療の状態と考えられています。軽症の方の多くが「タバコで少し咳や痰が出てるだけだろう。息切れも運動不足が原因かな」ぐらいに自覚症状を軽くとらえてしまい、呼吸困難が本格的に出現するまで放置しているのです。
詳しくは次回にお話しますが、COPDがあると肺炎や風邪・コロナに罹患した際に異常に悪化したり、急変するリスクも格段に上がります(コロナでお亡くなりになった有名な芸人さんも、ヘビースモーカーだったと言われています)。
喫煙されている方はくれぐれも放置しすぎないように注意してください。
次回はCOPDの治療や合併症についてお話しします。
- World Health Organization: The top 10 causes of death.
- Respirology. 2004;9:458-65.
- COPD診断と治療のためのガイドライン2022. 日本呼吸器学会