COPD(タバコ病)とは②|山の手内科クリニック|神戸市の内科、呼吸器内科、アレルギー科

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医療コラム

COPD(タバコ病)とは②|山の手内科クリニック|神戸市の内科、呼吸器内科、アレルギー科

続いて、COPDの治療についてです。

 

COPDの治療は、非薬物療法(=COPD用の薬を使わない治療)と薬物療法(COPD用薬を使う治療)に大別されます。 

まず非薬物療法から説明したいと思いますが、まず何よりも一番大事な治療は何でしょうか?

 

…そう、おそらく皆さんおわかりでしょうが、「禁煙」です!

 

これが一番大事で、でも一番難しい治療だったりします。

「それができたら苦労しないよ…」と思われる喫煙者も多いと思います。それもそのはず、喫煙がなかなかやめられないのはこれが「ニコチン依存症」という「病気」だからです。ニコチンに対する身体的依存と、喫煙習慣による心理的依存を同時に克服していかなければならないので、なかなか自分一人だけの力で禁煙できないんですね。ですので巷の(当院でも行っております)禁煙外来では、喫煙をニコチン依存症という病気として捉え、禁煙補助薬を使用して禁煙を目指す診療が行われています。

 

時々、加熱式タバコや電子タバコはどうなの?とか、受動喫煙でも関係あるの?といった質問を受けますが、これらのタバコが紙巻タバコよりも健康リスクが低いという証拠(エビデンス)は今のところありません。(1)また、受動喫煙もCOPDの危険因子であり、増悪の原因にもなると報告されています。(2) ですので、やはり避けるに越したことはなさそうです。

 

非薬物療法にはその他にもワクチン(感染予防)、身体活動性の向上と維持、呼吸リハビリテーション、栄養療法などがあります。

ざっくり言うと、「COPDの人は肺がボロボロで呼吸器感染症にかかりやすいので、ワクチンで感染予防をしましょうね。あと咳や痰、息切れのせいで体を動かさなくなると、どんどん筋力が落ちて、さらに動けなくなる(=負のループ、悪循環)ので、そうならないようにリハビリしたり、体を可能な範囲で動かして筋力を維持していきましょうね。栄養もしっかりとりましょう。」という内容です。(ざっくりしすぎ?)

 

1点、ワクチンについて補足しておきます。

新型コロナウイルスの流行、コロナワクチン接種を経て、昨今はワクチンに対する様々な意見が飛び交っています。私はワクチン接種は本人の自由、自己責任だと思っていますが、SNSだけの意見や感情だけで決めるのではなく、信頼できる情報をしっかり収集し、客観的に考え、決めていただければと思っています。(小児のワクチンは別です!必ず打ってあげて下さいね!)

…なのですが、特にCOPD患者さんに対して、ワクチン接種することでCOPDの急性増悪(ぞうあく=急にとても悪化すること)や入院率、死亡率が大きく減ったという明らかなエビデンスがあるワクチンが2つあります。

 

それは、インフルエンザワクチンと、肺炎球菌ワクチンです!(3,4,5) この2つはエビデンスも豊富で確実なため、COPDがある方全員に接種していただきたいワクチンです。

 

他にも最近新しく出たRSウイルスワクチン(アレックスビー®)や新型コロナワクチン(コミナティ®)も、個人的にはCOPDの方(や肺にその他の持病がある方)に推奨しておりますが、歴史が浅い点、副作用がある点、薬価(高い)などの点で、各々の判断によるところが大きいのかなと思っております。(これらのワクチンは全て当院で接種可能ですので、希望される方、打つかどうか悩まれている方はご相談くださいね。)

 

次に、薬物療法についてです。

COPDの薬物療法の中心は吸入薬とされています。(喘息と同じですね!)

実は、使用する治療薬も喘息と一部重複しているので、当院の呼吸器コラム「長引く咳にご用心③ 喘息吸入薬」をまだ読んでない方(やもう忘れた方(泣))は先に読んでもらった方がよいかもしれません。喘息もCOPDも気管が細く狭くなっている状態ですので、それを吸入薬で広げてやるわけですね。

 

以前ご紹介したLAMA(長時間作用性抗コリン薬)やLABA(長時間作用性β2刺激薬)、またはそれらでも改善が乏しい場合は両者の配合薬(LAMA/LABA)が主役になります。以下、商品名を挙げてみます。 

LAMA:スピリーバ®、エンクラッセ®、シーブリ®、エクリラ®

LABA:オンブレス®、オーキシス®

LAMA/LABA:スピオルト®、アノーロ®、ビベスピ®、ウルティブロ®

 

詳しい機序は割愛しますが、LAMALABAも気管支の平滑筋に作用して気管を広げます。LAMAが優先して使用されることが多いですが、LAMAは前立腺肥大症で排尿困難がある男性や、閉塞隅角緑内障(緑内障の中でも本当に悪いタイプ)がある方には禁忌(使うと悪化する)となっており注意が必要です。

 

ここで、あれ?と思われた方!さすがです。

そう、喘息のコラムで何回も主役の薬だとお伝えしていたICS(吸入ステロイド)が入っていませんね。この吸入ステロイド、気管のアレルギーによる炎症を取る効果があるのですが、今回のCOPDはアレルギーというよりかは喫煙による直接的なダメージに伴う炎症ですので、ICS単独では用いられません。

 

しかし、上記の配合薬であるLAMA/LABAでも改善が乏しい場合は、最後の一手としてトリプル吸入薬(ICS/LAMA/LABA)が用いられます。補助的な感じでICSが入ってくる感じです。商品としては、、

ICS/LAMA/LABA:ビレーズトリ®、テリルジー®、エナジア®

3つが使用されます。

 

以上が吸入治療の説明になります。吸入薬がたくさんあり、患者さんに合う合わないもありますが、どの薬を選択するかは医師次第といったところでしょうか。吸い方や薬の選択に関してはコラム「長引く咳にご用心③」で詳しく書いておりますので、是非参考にしてみてくださいね。吸入薬以外には、去痰剤や鎮咳薬、抗生剤、漢方薬などが使用されます。

 

では最後に、重症のCOPD(いわゆる末期)の治療である、「酸素療法」についてお話します。

時々、道端で長細い酸素ボンベをゴロゴロと引きながらお鼻に細いチューブをつけて歩いている方を見かけませんでしょうか(最近はマスクをする方が多いので、あまり気づかないかもしれませんね)。これは在宅酸素療法(HOTHome Oxygen Therapy)といって、自宅や外出時など普段の生活で酸素を使う治療になります。

心臓や肺の病気でHOTをしている患者さんは日本中にたくさんおられますが、なんとその約45%COPDと言われています(6)。かなりの大部分を占めているわけですね。前回のコラムでCOPDでは労作時の息切れ(低酸素)が目立つのが特徴、とお伝えしましたが、重症COPDはそれが本当に顕著になりかつ安静時も低酸素になったりします。酸素がないと日常生活がままならないためHOTが必要になるわけです。

 

ここで、そもそも自宅でどうやって酸素を用意するの?酸素ボンベをいっぱい自宅に置いとくの?と思われる方もおられるかもしれません。実は、「酸素濃縮器」といって「その場の空気を取り込んで酸素だけを抽出し、その酸素を患者さんのお鼻に流す装置」を自宅に置いて使用されます。で、外出する時だけはその機械を持っていけないので、携帯用の酸素ボンベを上述したようにゴロゴロと引っ張って使ったりします。(他にも携帯用の小型酸素濃縮機などもありますがここでは割愛します)

 

このHOTにより息切れがましになり生活圏が広がることはもちろん、生命予後が改善することも示されています。私もこれまで色んな方にHOTを導入してきました。しかしほぼ全ての方が、例え必要性が理解できていたとしてもすぐにはHOTを受け入れられなかったと思います。それほど本人にとっては辛い選択になると思います。 

もちろん間質性肺炎など喫煙と関係なく(仕方なく)HOTが必要になる場合はあります。しかしCOPDに関しては禁煙することで予防できることが明確である以上、HOTにならないためにも、やはり禁煙しない理由はないと考えております。

 

ということで以上、COPDについてのコラムでした。

当院では吸入治療もHOTも禁煙外来も可能ですので、お悩みの方はご相談くださいね。

 

次回は「間質性肺炎」についてお話したいと思います。

 

 

  1. 日本呼吸器学会. 加熱式たばこや電子バタコに関する日本呼吸器学会の見解と提言
  2. Lancet. 2007: 370;751-7.
  3. Cochrane Database Syst Rev. 2018;6:CD002733.
  4. N Engl J Med. 2007;357:1373-81
  5. Cochrane Database Syst Rev. 2017;1:CD001390.
  6. 日本呼吸器学会. 在宅呼吸ケア白書2010.
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