
呼吸器コラム、続きましては「間質性肺炎」についてです。
これまでお話してきた喘息やタバコ病と比べると、この言葉を耳にすることは少ないかもしれません。最近では演歌歌手の八代亜紀さんが間質性肺炎でお亡くなりになった、というニュースが記憶に新しいかもしれません。いわゆる普通の肺炎とは異なります。
…というか、そもそも「普通の肺炎」って皆さんどんな肺炎をイメージしますでしょうか?
実はひとえに「肺炎」といっても、様々な原因で発症します。皆さんが一番イメージしやすいのは、感染症による「感染性肺炎」だと思います。
今回は詳しく話しませんが、実はこの「感染性肺炎」もざっくりと以下に分類されます。
①細菌(バイ菌)感染による細菌性肺炎:肺炎球菌、インフルエンザ菌、マイコプラズマ、レジオネラ菌など
②ウイルス感染によるウイルス性肺炎:コロナウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルスなど
③真菌(カビ)による真菌性肺炎:アスペルギルス、クリプトコッカス、ニューモシスチスなど
④結核による結核性肺炎:(その名の通り)結核菌
などなど…。どうでしょうか?意外に多いでしょう?
一般的に巷で「肺炎」という時には、この中でも①細菌性肺炎を指していることが多いと思います。私も長年の診療で一番多く出会ってきたのは細菌性肺炎です。(しかし、新型コロナの流行を経て②のウイルス性肺炎を経験することも増え、イメージは若干変わったようにも思います。③、④は呼吸器を専門としているとよく出会いますが、まぁレアっちゃレアです。)
さらにいうと、細菌性肺炎の中でも肺炎球菌は一番多い原因菌と言われ、「65歳からの肺炎予防。」というキャッチコピーで西田敏行さんが肺炎球菌ワクチンの啓蒙活動に携わっておられました(今は段田安則さんみたいです)。
ということで話がやや脱線しましたが、「普通の肺炎」をここでは感染性肺炎の中の「細菌性肺炎」としてお話を進めてみます。
次に、(超絶今更ですが)肺ってどんな臓器か覚えていますか?
COPDのコラムでお話しましたが、肺は中枢気道(口に近い太い気管支)~末梢気道(気管がたくさん分岐した細い気管支)~肺胞(肺そのもの=肺実質=スポンジのような組織)で構成されています。このスポンジのような組織である「肺胞」で、口から吸った酸素と体中をめぐる血液が交わり、ガス交換が行われるんですね。下の図を見てみてください。
これが正常な肺胞です。この図の「実質」というのが「肺実質」、つまりはスポンジそのもの(=ガス交換を行う場所)なんですね。で、この肺実質の間を隔てる壁(肺胞隔壁=スポンジの表面)のことをざっくりと「間質」と呼びます。肺胞を支える役割を担っています。
さて、そろそろ何が言いたいかわかってきましたでしょうか?
いわゆる普通の肺炎では、細菌(バイ菌)が主に肺実質(スポンジ)に溜まり、炎症がおきます。下の図の紫色がバイ菌のイメージです。
このように、肺胞内にバイ菌による膿(うみ)がたまり、膿性の(ドロっとした)色がついた痰が増えて、肺の機能が低下します。
一方、間質性肺炎はその名の通り主にこの「間質」に炎症が置きます。下の図の赤色の場所がやられる(炎症が起きる)イメージです。
どうでしょうか?同じ肺炎とはいえど、だいぶん雰囲気が違うのがわかりますでしょうか。
そしてこの間質の炎症がひどくなったり、ずっと放置していると、この間質部分が「線維化」といって分厚くガチガチに硬くなる変化が起こります。下の図がそのイメージです。
複雑な線維化の機序などの詳しい説明は省きますが、ガチガチいうか、ボコボコというか、ボテッとしてるというか…、とりあえずヤバそうなことだけは伝わりますでしょうか?この図のような状態になると、肺が膨らみにくいのはもちろん、酸素の取り込みやガス交換も満足にできず、結果として動いた時の息切れや空咳が出てきます。
ということで簡単にまとめると、間質性肺炎とは
「肺胞の壁である間質に炎症が起きて、肺がガチガチに硬くなる肺炎」です。
これ、その名の通り炎症が起きる場所(間質)を指して命名されている感じです。ですので、そもそもその炎症がなぜ起きているのかといった肺炎の原因は問わない、いわば総称(症候群)のように用いられています。
…となると、次に思うのが「じゃあどんな原因でその間質性肺炎が起きるの?」ということじゃないでしょうか。
実はこの間質性肺炎、原因がわかっているものと、原因がわからないものに大別されます。
前者に関して、実は間質性肺炎は100を超える原因があると言われています(1)。ですが、その中でも比較的多いものとしては、免疫の異常や薬剤、吸入物質によるものが挙げられます。順番に説明します。
まず「免疫の異常」とは、関節リウマチや皮膚筋炎・シェーグレン症候群などの「膠原病」のことを指します。膠原病というとあまり聞き慣れないかもしれませんが、いわゆる「自己免疫疾患」と呼ばれる、自分の免疫が異常をきたして暴走し、その結果自分の体を間違って攻撃してしまう病気です。(例えばリウマチはその結果自分の関節がやられるわけですね)。
この免疫異常によって自分の肺も(間違って)攻撃された結果、肺の間質に炎症がおき、間質性肺炎を起こすことがあります。これを示唆するサインとしては、呼吸器症状に加えて、皮疹や筋力低下、関節症状、口の異常な乾燥など+αの症状があるのが特徴です。
次に「薬剤性」とはその名の通り薬剤が原因で肺炎がおきるものを指し、抗生剤や抗がん剤、漢方薬、サプリなどが代表的です。特に抗がん剤は頻度が多く、私もこれまで多数の肺がん患者さんの抗がん剤治療に当たりましたが、この間質性肺炎に悩まされることは少なくありませんでした。
次に「吸入物質」ですが、代表的なものでいうとタバコ、ホコリやカビ、鳥の分泌物や羽毛、アスベストなどを長期的に吸うことで「過敏性肺炎」や「じん肺」などを発症することがあります。これらもれっきとした間質性肺炎です。
その他にも、例えば肺の放射線治療を受けたりしても間質性肺炎が起こりますし、コロナウイルスなどによるウイルス性肺炎も(細菌性肺炎と異なり)肺の間質がやられやすい特徴があります。
しかし、一方でこれらの原因が全くない(もしくはわからない)間質性肺炎もたくさん存在します。
上記で述べたように原因が特定できればよいのですが、残念ながら6割ぐらいで間質性肺炎は原因不明とされており、私もたくさん間質性肺炎を見てきましたが同様の意見です。ちなみに、そういった原因がわからないことを医学的に「特発性」と呼ぶので、「特発性間質性肺炎」と呼ばれます。
…さて、だいぶん長くなりましたので今回は終わりにします。
最後にまとめると、
「間質性肺炎は普通の細菌性肺炎と異なり、肺が硬くなる肺炎の総称。原因がわかることもあるけどわからないことも多い。肺以外に不調な体の場所はないか、変な薬やサプリを飲んでいないか、普段からよくないものを吸っていないか、思い当たるものがあれば気をつけましょう。」
というところでしょうか。(適当ですみません)
次回は間質性肺炎の症状や予後についてお話します。
- Jacob J et al. Respirology 20: 859-872, 2015.