長引く咳にご用心④  喘息治療薬 ~バイオ製剤~|山の手内科クリニック|神戸市の内科、呼吸器内科、アレルギー科

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医療コラム

長引く咳にご用心④  喘息治療薬 ~バイオ製剤~|山の手内科クリニック|神戸市の内科、呼吸器内科、アレルギー科

前回の吸入薬に続き、今回は重症喘息の治療薬であるバイオ製剤(生物学的製剤)について少し触れたいと思います。

 

いきなりですが、この「バイオ製剤」という言葉、聞いたことはありますでしょうか?

バイオ製剤は、一般的な薬のように化学的に(人工的に)合成した薬ではなく、生体が作る成分を人工的に作ったり作り替えたりして、それを治療薬として使用した薬を指します。

そして、喘息治療で用いるバイオ製剤はその中の「抗体」という成分を用いた抗体薬になります。つまり、喘息の気道炎症を悪化させる原因となる分子だけを標的にして、その部分にくっついて、その作用をじゃまするわけです。

 

これまで説明してきた吸入ステロイドや気管支拡張薬が喘息治療のメインであるのはあくまで変わりませんが、これらの治療はイメージ的には喘息で起きている気道炎症を上から抑え込む「火消し」のような治療です。

一方、バイオ製剤による治療は気道炎症や過剰なアレルギー反応を根本から抑えて、「火元から消す」ようなイメージです。(あくまでイメージなので、正確な解説は成書に譲ります)

 

このバイオ製剤により、喘息(アレルギー)の原因となる「好酸球」や「マスト細胞」と呼ばれる細胞たちの機能を抑えられ、結果として患者さんの喘息が増悪する頻度が減り、救急外来を受診する回数も減った、というような効果が示されています。

このバイオ製剤、現在は喘息患者さん全員に使用できるわけではなく、吸入ステロイド薬やアレルギー薬をしっかり使用しても喘息の状態が悪い、いわゆる重症喘息の患者さんのみが対象になります。また、薬価も高額となります。

 

現在20248月現在、重症喘息の患者さんに対して以下5種類のバイオ製剤が承認されています。

・オマリズマブ(ゾレア®):抗IgE抗体
・メポリズマブ(ヌーカラ®):抗IL-5抗体
・ベンラリズマブ(ファセンラ®):抗IL-5受容体α抗体
・デュピルマブ(デュピクセント®):抗IL-4/13受容体α抗体
・テゼペルマブ(テゼスパイア®):抗TSLP抗体

一つずつ簡単に解説してみます。

 

① オマリズマブ(ゾレア®):

血液検査でアレルギーが確認され、総IgE値が高い(301500IU/mL)方が対象になります。この薬はマスト細胞というアレルギー関連の細胞から出るIgE抗体に作用してアレルギーを抑制します。アレルギー性鼻炎を合併している場合は鼻炎症状の改善も期待できます。体重と総IgE値に基づいて投与量・投与間隔が決まり、2週間または4週間ごとに皮下注射で投与します。

 

② メポリズマブ(ヌーカラ®):

IL-5というサイトカインを阻害して好酸球が関与した喘息に対して効果があります。血液中の好酸球数が5%以上(もしくは300/μL以上)の場合により効果が期待できます。4週間ごとに皮下注射で投与し、6歳以上の小児喘息にも適応があります。

 

③ ベンラリズマブ(ファセンラ®):

メポリズマブと同じく好酸球が関与する喘息に使用されますが、IL-5の受容体をブロックすることでより強力に好酸球を減少させる効果があります。最初の3回は4週間ごと、その後は8週間ごとに皮下注射で投与します。

 

④ デュピルマブ(デュピクセント®):

好酸球の活性化に関与するIL-4/13というサイトカインの受容体をブロックすることで、好酸球や気道上皮細胞に関連する炎症を抑えます。呼気一酸化窒素の数値が高い方(25ppb以上)に対して効果が期待されます。アトピー性皮膚炎にも適応があるため、アトピー性皮膚炎を合併した喘息患者さんに特に有効です。初回は通常の倍量を投与し、その後は2週間ごとに皮下注射で投与します。

 

⑤ テゼペルマブ(テゼスパイア®):

2022年に承認された最も新しいバイオ製剤で、他のバイオ製剤が効かなかった重症喘息患者さんに効果が期待されています。この薬は、気道上皮細胞が産生するTSLPというサイトカインの作用をブロックすることで、気道の炎症を抑えます。4週間ごとに皮下注射で投与します。まだ新しい薬であるため、今後の研究データが期待されています。

 

 

このようにそれぞれのバイオ製剤によって特徴や作用機序が異なり、患者さんのアレルギー検査、採血検査、呼気検査の結果や併存症によって、どれが適しているのかが決まってきます。

 

はじめにお話したように、基本的には重症の喘息で、既存の治療でもコントロールが不十分な方がバイオ製剤の適応となります。特に経口のステロイド薬(プレドニン)を頓用、もしくは連用している方や、頻回に発作が出ては救急外来を受診している、といった方はバイオ製剤の絶対適応と考えられます。

 

一方でこのバイオ製剤、効果が高い反面でお値段も高い、というデメリットがあります。

投与量・投与間隔は患者さんによりバラバラですが、上記の注射1本で8千円~9万円前後(3割負担)とかなりの高額となります。一般的には「高額療養費制度」が適応になることが多いため、使用する際には主治医の先生にお話を聞くだけではなく、ご自身でも軽くお勉強しておくことをお勧めします。

https://www.city.kobe.lg.jp/a52670/kurashi/support/insurance/kogakuryoyohi.html

 

最後に、このような重症喘息に対してバイオ製剤を正しく選択し使用することはもちろん大事なのですが、個人的にそれよりもっと大事なのは「患者さんのアドヒアランス」だと思っています。(ん?何のこと?という方は以前のコラムをご参照ください)

現在の治療をしっかりと理解した上でできているか、吸入薬をきちんと正しく吸えているか、というのは意外に(医師側も)見落としがちなポイントです。個人的にも、患者さんの治療経過を適宜振り返りつつ、バイオ製剤を含めた最適な喘息治療を提示したいと考えています。

 

 

さて、これまで「長引く咳」の原因の中でも特に頻度が多い喘息についてお話してきました。

当院では咳を主訴に来院される患者さんがとても多く、喘息はその中でも一番多い状況です。このコラムで少しでも皆様の喘息に関する理解が深まれば幸いです。

次回からは長引く咳の、「喘息以外の原因」について解説したいと思います。

 

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