長引く咳にご用心③   喘息吸入薬|山の手内科クリニック|神戸市の内科、呼吸器内科、アレルギー科

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医療コラム

長引く咳にご用心③   喘息吸入薬|山の手内科クリニック|神戸市の内科、呼吸器内科、アレルギー科

さて、次は吸入薬についてお話していきます。

 

まずはどの吸入薬でも共通して大事な「吸入薬の吸い方」について触れたいと思います。

「え、口をつけて吸うだけでしょ?」と思われる方もいるかもしれません。しかし、実は正しく吸うのと適当に吸うのでは、吸入薬の選択以上に効果が異なってくる場合があります。すでに吸入薬を使っている方、これから使うかもしれない方も注意してみてください。 

 

1つ目は、吸うときの「流速」です。

薬を吸う以上ある程度の流速が必要になってきます。前回、吸入薬にはシュッと出るタイプ(pMDI製剤)と、粉を自力で吸い上げるタイプ(DPI製剤)があると言いました。当然、DPIの方が自力で薬を吸い上げる分速い流速が必要となり、40L/分以上の流速が望ましいとされています。一方、シュッと出るpMDI40L/分未満でもOKです。

また、速ければ速いほどよいというわけではなく、50~80L/分程度がちょうどよいとされています。数字で言われてもピンと来ないと思いますが、これはうどんやラーメンをすするときの速度です。皆さん、如何でしょうか。吸入薬を吸う時があれば、とりあえずうどんをすするイメージでやってみてください。また、pMDIDPIのどちらを使用するかは処方される先生の判断になると思いますが、合う合わないも当然ありますので、処方後も使用感を伝えるようにしましょう。

 

2つ目は舌の位置です。

そのまま吸入器を咥えると、吸入口のすぐ前に舌がきます。この状態で吸うと、薬が舌にあたって止まってしまい、薬が気管まで届かず効率が悪くなります。この対策として、舌を下の歯よりも前に出して、「ホー」と言う時の舌の位置で吸うことで舌へ薬が当たることを回避する方法があります。呼吸器界隈ではこれを「ホー吸入」と呼んでおり、日本喘息学会でも説明動画が載っています。こちらも是非参考にしてください。(日本喘息学会「ホー吸入」説明動画(https://jasweb.or.jp/movie_ho_JP.html))

 

3つ目は息止めです。

どんな吸入薬でも、吸った後は必ず4~5秒ぐらいは息止めをしてください。肺全体に行き渡らせるためには、結構大事だったりします。

 

では、共通の前置きはこれぐらいにして、吸入薬の種類について説明していきます。

前回のコラムで一番始めにお話したように、現在の喘息の症状に応じた治療ステップ(治療強度)が定められています。強さの順番でお示しすると、

① 吸入ステロイド薬(ICS
② 吸入ステロイド薬/長時間作用性β2刺激薬(ICS/LABA
③ 吸入ステロイド薬/長時間作用性抗コリン薬/長時間作用性β2刺激薬(ICS/LAMA/LABA 

となります。①→②→③と治療ステップが上がり強い薬に変わっていくわけですが、これらの治療薬(成分)のうち、最も大事になってくるのが①の「吸入ステロイド(ICS)」です。

 

① 吸入ステロイド(ICS

吸入ステロイドは喘息治療の主役です。「吸入ステロイドなくして喘息コントロールなし」と断言してもよいぐらい、喘息の長期管理には必須の薬であります。

具体的にはオルベスコ、パルミコート、アニュイティ、フルタイドなどが該当します。

 

細かい作用機序は省きますが、ざっくりと効果を列挙すると

・気道への炎症細胞浸潤を抑制する
・血管透過性を抑制する
・気道分泌を抑制する
・気道過敏性を抑制する
・ロイコトリエンやサイトカインの産生を抑制する
・β2刺激薬(LABA)の作用を増強する

といった作用が報告されています。

なんのこっちゃ、、、と思われた方も多いかもしれませんが、要は前回お話した「気道で起きているアレルギー性の炎症」を抑えることで起きる作用だと思ってください。

 ICSは喘息患者さんの喘息症状・発作のリスクを軽減し、QOLを改善し、喘息死を減らすことがわかっています。他にも気道リモデリングの抑制など様々な効果がありますが、一番大事なのは、症状を和らげ、日常生活を豊かに送れることです。

「え、じゃあ喘息には吸入ステロイドさえあればいいじゃないか、他の薬なんていらないんじゃない」という意見もありそうですが、実は喘息患者さんの全員がICSに反応するわけではなく、3割ぐらいは反応性が不良とされています。これは遺伝子や環境など様々な要因が考えられますが、環境因子として重要なのは

、、、そう、タバコです!タバコを吸っている喘息患者さんはICS(というか吸入薬全て)が効きにくいのでこれだけは注意してください。

 

② 吸入ステロイド薬/長時間作用性β2刺激薬(ICS/LABA

治療ステップ2以上で使用するのがこのICS/LABAという吸入薬になります。これは①の吸入ステロイド薬に長時間作用性β2刺激薬(LABA)という別の薬が配合された合剤になります。

このLABA、その名の通り気道のβ2受容体という部分を刺激することで気道の平滑筋の収縮を緩和し、気道を直接広げる作用があります。ですので、ICSと異なり気道のアレルギー炎症を鎮める効果はありません。そして喘息治療においては、このLABAのみを単独で使用したら喘息が悪化したという明確なエビデンスがあり1)、必ずICSとセット(配合薬)で使用するようにとされています。主演のICS、脇役のLABA、というイメージでしょうか。

商品名ではシムビコート(ブデホル)、フルティフォーム、レルベア、アテキュラなどが該当します。

繰り返しになりますが、喘息治療の主役は吸入ステロイド(ICS)です。しかし、個人的にはこのICS/LABAが最も使用頻度が多いように思います。やはり気管支拡張薬(LABA)が含まれている分患者さんも効果を実感しやすく、まずは喘息症状を0にして、しばらく安定していればICS単剤治療にステップダウンする、という方法を私はよくとっています。

副作用として、LABAが交感神経を刺激することで動機やしびれが出現することがあります。そのような場合には以下のLAMAやその他の内服薬などを使用することになります。

 

③ 吸入ステロイド薬/長時間作用性抗コリン薬/長時間作用性β2刺激薬(ICS/LAMA/LABA

上記のICS/LABAに、さらに長時間作用性抗コリン薬(LAMA)が加わった薬で、「トリプル製剤」と言われています。

商品名ではテリルジー、ビレーズトリ、エナジアの3つが現在臨床で使用されています。

この3つ目の成分、LAMAは慢性閉塞性肺疾患(COPD)、いわゆるたばこ病の治療で長年主役の座に君臨していた薬ですが、喘息治療においてはあまり使用されてきませんでした。しかし近年様々な臨床試験が行われた結果、喘息に対しても結構いいんじゃないの?と喘息に対しても効果が認められ、2015年の喘息ガイドライン改訂の際に長期管理薬として採用されました。例えば、代表的な臨床試験の1つのTALC試験では、ICSのみでコントロールがうまくいかない喘息患者さんに対して、ICSLAMAを使用した群は、ICS+LABAを使用した群とたいして変わらなかった、というデータがあったりします2)

トリプル製剤はICS/LABAでも治療がうまくいかない人に対する次の1手として使用することが多いですが、症状がひどすぎる人には初回治療時から選択することもあります。ネックとしては、効果が高い一方、お値段も高いことでしょうか(薬にもよりますが3割負担で月27003000円前後)。このあたりは悩ましいところですが、だからといって喘息治療をやめたりコントロールが不十分なまま経過してしまうと、その後悪化してもっと医療費がかかることになることもあります。例えば入退院が増えたり、頻回に発作で外来を受診したり、バイオ製剤を使用したり、ステロイド+副作用対策の内服薬を飲むことになったり…。ですので、やはりトリプル製剤を使用すべき状況であればまずしっかりと使用すべきだと思います。

 

さて、長くなってしまいましたが、以上が喘息治療のメインである吸入薬についてです。

 

まとめると

・うどんをすするぐらいのスピード感で「ホー吸入」
・息止め大事
・喘息治療の主役は吸入ステロイド
・必要であれば配合薬もしっかりと使う

です。覚えておいてくださいね。

 

次回は先程ちらっと出た、バイオ製剤(生物学的製剤)のお話をしたいと思います。

 

  1. Ann Intern Med. 2006 Jun 20;144(12):904-12.
  2. N Engl J Med. 2010 Oct 28;363(18):1715-26.
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