長引く咳にご用心②   喘息治療|山の手内科クリニック|神戸市の内科、呼吸器内科、アレルギー科

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医療コラム

長引く咳にご用心②   喘息治療|山の手内科クリニック|神戸市の内科、呼吸器内科、アレルギー科

続いて喘息の治療についてお話します。

では一つ目の薬は、、、と言いたいところですが、その前に喘息の「重症度分類」について簡単に説明したいと思います。

まずは下の表を見てください。 

(喘息予防・管理ガイドラインをもとに作成)

これは、普段の喘息症状がどれぐらいの頻度で起きているか、(検査をしているなら)呼吸機能はどれくらいなのかで重症度を分け、それに適した治療(治療ステップ1~4)を行いましょう、という目安になります。

まさに今喘息発作でぜいぜい言いながら来院された患者さんに当てはめるのは難しいのですが、普段から症状があるけどなんとか過ごしてます、という人には良い目安になると思います。

これを全部覚えて頂く必要はないのですが、個人的には「夜間症状」の欄だけ覚えておいていただきたいと思っております。というのは、喘息は夜間や明け方に悪化することが多いからです。表にもありますように、週1回以上夜間に喘息症状があればその時点で「中等症持続型」以上となり、治療ステップ3(上から2番目の治療強度)以上の治療が必要、とうことになります。

ですので、「日中はましなんですけど、夜は週2、3回ぐらい咳がひどい時があるんですよね~。でもまあ何とかなってるんで様子見てます」という方は、一見何とかなっているには見えますが、実はまあまあ悪い(中等症持続型以上)ということになります。

 

これをなぜ放置するとよくないのか、皆さんぱっと言えますでしょうか? 

前回のコラムで喘息の定義をお伝えしました。それは、

「アレルギーの炎症が気管でずーっと起きてて」、「そのせいで気道が狭く(細く)なってて」、「さらには気道が過敏(デリケート)になってるから」、「ちょっとした刺激などで息苦しさや咳の症状が出てしんどいよ」でした。(適当な説明ですみません)

つまり、「喘息症状がある」=「気道で喘息の炎症が起きている」のを放置すると、どんどん気管が過敏になり、気管が狭く細くなっていき、しまいには息切れなどの症状が進行することになるからよくない、というのが答えになります。

またたとえ症状がなくても、それは「症状がでる閾値に到達するほどではない気道の炎症が起きている」ことを意味するのであって、あくまで「症状がない」=「喘息の気道炎症が起きていない」=「治療しなくてよい」ということにはならないのです。「喘息の症状がある」というのは気道炎症による弊害のあくまで「氷山の一角」に過ぎない、ということですね。

 

喘息により狭くなった気道は自然に、もしくは治療することである程度は元の状態に回復します。これを「可逆性」と呼び、軽症の喘息患者さんはこの状態であることが大半です。しかし治療を行わずにずっと放置したり、治療を自己中断してしまうと、気道の炎症、さらには気道の狭窄が進み、ある日を境に治療しても元の状態まで戻らない「不可逆性」の状態となってしまいます(この気道狭窄を「リモデリング」と呼びます。気管支がちくわみたいになるイメージです)。こうなると、治療が一気に難しくなります。

 

ですので、そうならないよう症状に合わせて適切な治療を行い気道の炎症を鎮めてやることが大事で、この気道の炎症を抑えるための主役(第一選択薬)が「吸入ステロイド薬」となるのです。

 

さて、ステロイドと聞くと「体に悪そう」「副作用が心配」と思われる方も多いと思いますが、ご安心ください。吸入ステロイド薬は気管だけに効き、副作用も全身投与(ステロイドの飲み薬)と比べると圧倒的に少ないです。短期的な副作用には吸入薬使用時の咽頭違和感や嗄声など、長期的には口腔カンジダ(全くうがいをしなかった場合)などでしょうか。私自身も吸入薬はよく処方してきましたが、あまり遭遇することは多くありません。(小さいお子さんに関しては、長期的に使用することで身長の伸びがわずかに低下した、という報告があります)

 

「クスリはリスク」という言葉があります。どんなクスリも副作用(リスク)がないものはありません。この吸入ステロイド薬も同様にメリット(喘息の炎症を抑える効果)がデメリット(副作用)を上回る場合に使用されますが、こと喘息に関してはこの開きが大きい、つまり圧倒的にメリットの方が大きいと考えています。昔と比べて喘息で亡くなる患者さんが大きく減ってきたと前回お伝えしましたが、その理由もこの吸入ステロイド薬の普及によるところが非常に大きいと思われます。

 

さて、前置きが長くなってしまいましたが、続いて吸入薬の種類についてお話します。

昨今、次々と新しい吸入薬が出てきており、私も覚えきれないほどたくさん存在します。それぞれに特徴がありますが、ざっくりと

・セットされた粉を自力で吸い上げるタイプか
・ボタンを押してシュッと出るミストを吸うタイプか
・1日1回吸入するか
・1日2回吸入するか

によって使用するデバイスが概ね決まってきます。患者さんごとに合うと思われる組み合わせを選び、あとは各々の治療ステップをみてそのデバイスの中から選ぶという感じです。

 

、、、なのですが、そもそも論として、治療にいちばん強く影響する(と私が思う)のが、患者さんの「アドヒアランス」だと思います。

これはあまり聞き慣れない言葉かもしれません。昔は「コンプライアンス」といって、医療者の指示にどの程度患者さんが従ってくれるかという言葉が使用されていましたが、「アドヒアランス」とは患者さんが積極的に治療方針の決定に参加し、その決定に従って治療を受けることを意味します。患者さんは医師の指示に従うべき、という昔の考え方から脱するために生まれた言葉です。

実は喘息治療において、「薬剤選択1割、アドヒアランス9割」と言われるほど大事な要素です。アドヒアランスをもっとわかりやすく(?)いうと、「喘息治療の目的や目標を(医師の説明により)どれだけ患者さんが理解した上で治療しているか」、となるでしょうか。ここまでこのコラムを読んでくれた皆様はもう治療目的がおわかりかと思いますが(ドキッ!)、ここが曖昧だと、やはりどれだけデバイスや治療ステップをあれこれ調整しても治療が不十分になる傾向が強いと感じています。

 

 私も喘息に限らずですが、どんな病気の治療もできるかぎり目的とゴールをわかりやすく伝えるよう心がけています。患者さんのわからないことや気になること、「私はこう思っている」ということを積極的に話していただき、お互いの認識に大きなずれがないようにしつつ、同じ方向を向いて治療していくことが大事だと思っております。

 

さて、結局喘息治療の前置きで終わってしまいました。。

次からは吸入薬についてお話していきたいと思います。

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