長引く咳にご用心|山の手内科クリニック|神戸市の内科、呼吸器内科、アレルギー科

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医療コラム

長引く咳にご用心|山の手内科クリニック|神戸市の内科、呼吸器内科、アレルギー科

呼吸器ブログの初回は「長引く咳」についてです。
(当院HP、「診療案内」の「呼吸器内科」にも説明があるので是非ご参照ください。)


 
5月に開業した後、咳を主訴とする患者さんが多く来院されました。

 長引く咳の原因は多岐にわたりますが、診療をしていて多い印象があるのが

・喘息
・咳喘息
・感冒後咳嗽(かんぼうごがいそう)

 かと思います。

 

3つ目の「感冒後咳嗽」は、咳の出始めの時期に明らかな風邪症状があった、そして熱はおさまったけど咳や痰が続く、というエピソードが典型的です。診療をしていて遭遇することが特に多い疾患ですが、基本的には症状がだらだら続くものの再度悪化することはあまりありません。ですので、おさまりつつあった熱や咳がぶり返してきた、痰が汚くなってきた、息苦しさが出てきた、などといった症状が出てきた時には注意が必要です。風邪(ウイルス感染症)ではなく、肺炎などの細菌(バイ菌)感染症を起こしているかもしれません。

 

ところで、今さらなのですが「風邪」の定義は皆さん知っていますでしょうか。
(そんなこと当たり前に知ってるわ!と思われるかもしれませんが。)

定義は
「ほとんどの場合自然寛解するウイルス感染症で、多くは咳・鼻汁・咽頭痛といった多症状を呈するウイルス性上気道感染」とされます。

ここで皆さんに覚えておいてほしいのは、この「多症状」であるということです。具体的には、咳・咽頭痛・鼻汁・鼻閉・くしゃみ・発熱・倦怠感・目やに・嗄声・関節痛、、、といった症状になります。

これらが(もちろん全部揃ってなくてもいいですが)程度の差はあれまんべんなくある、というのが「風邪」の特徴です。そして実は原因となるウイルスも様々で、アデノウイルス、コクサッキーウイルス、RSウイルス、エコーウイルス、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、、、とやはり多岐にわたります。

 

逆に、細菌(バイ菌)感染症にも特徴があります。

それは「細菌による感染症は、基本的に1つの部位(臓器)に細菌が住み着いておきる」ということです。

咽頭炎の原因菌として有名な「溶連菌(=溶血性連鎖球菌)」を例にとると、喉だけがやたら痛くて、首のリンパ節が腫れてて、咽頭に白苔(白っぽい膿)があるといった特徴がありますが、あくまで喉のみ(1つの臓器)に起きている感染症であって、鼻汁やくしゃみ、咳などは基本的に伴いません。

もちろん、咽頭痛がとても目立つ風邪も存在するので、上記の法則で100%見分けがつくわけではありません。ですが上記の法則は風邪診療ではとても大事な点でして、抗生剤を使うか使わないか、の選択に関わってきます。

周知の事実かと思いますが、ウイルス感染症に抗生剤は効きません。ですので、私自身も不必要に抗生剤を出さないよう気をつけております。

さて、話が少し逸れてしまいましたが、感冒後咳嗽以外の2つ、「喘息」と「咳喘息」についてお話しします。(頻度的には咳喘息が喘息よりもずっと多いと思いますが、病態は基本的に同じなのでまずは喘息からとします)

 

・喘息

一般的に喘息、と言われていますが、正しい用語は「気管支喘息」になります。喘息はその名の通り、「息が喘(あえ)ぐ」疾患です。喘息(asthma)はギリシャ語の「aazein(鋭い咳嗽)」に由来するとされています。

 あえて医学用語を用いた難しい言葉で喘息を定義すると、
「気道の慢性炎症、可逆性の気道狭窄、気道過敏性の亢進、臨床的に繰り返す咳嗽・喘鳴・呼吸困難感に特徴づけられた閉塞性肺疾患」 

となります。

、、、、はい、何を言っているのかわかりませんよね(笑)。すみません。

要は、「アレルギーの炎症が気管でずーっと起きてて」、「そのせいで気道が狭く(細く)なってて」、「さらには気道が過敏(デリケート)になってるから」、「ちょっとした刺激などで息苦しさや咳の症状が出てしんどいよ」ということです。

 昔、喘息の患者さんは今よりもっと多かったと言われており、1990年代の日本では年間5000人を超える喘息死亡者がいたと言われています。それ以降、喘息治療の発展に伴い死亡者は大きく減少していますが、全体の喘息患者さんの数はあまり変わっていない様です。
現在、喘息患者さんは日本人口の610%ほどいるのではないかと言われています。

 

喘息には「リスク因子」と呼ばれる、悪化や発症につながるものがあります。

・アレルギー(ダニ、ペット、花粉など)、アトピー素因、遺伝子素因、喘息の家族歴
・喫煙、受動喫煙、大気汚染、冷房・冷えた外気、過労・心理的ストレス、感情変化
・運動、肥満、月経・妊娠、風邪などの感染症

です。

この中で、ウンウンと頷けるものがたくさんあると思いますが、ストレス、月経・妊娠、運動といったリスク因子はあまり知られていないように思います。これらが当てはまる方で咳が長引いている方は、我慢せずに早めにご相談ください。

 

ちなみに、世の中の病気には「診断基準」と呼ばれる、診断を確定させるための症状や検査結果に関する基準が設けられていて、「~この中の何項目以上、かつこの項目を満たせば診断確定とする~」的なものがたくさん決められています。

なぜいきなりこんな話をしたかといいますと、実は、喘息には明確な診断基準が決められていないのです。色んな研究により喘息の病態はだいぶん明らかになってきたのですが、病態が様々でかつ似ている疾患が多いことから、「ここからここまでを喘息と呼びましょう」というラインが決まっていないのです。

 

「え、じゃあどうやって診断するの?」と思われたかもしれません。日本のガイドラインでは、「診断基準」ではないものの、「診断の目安」が掲載されています。

 

【喘息診断の目安】(※日本アレルギー学会喘息ガイドライン)

・発作性の呼吸困難、喘鳴、胸苦しさ、咳(夜間・早朝に出現しやすい)の反復
・可逆性の気流制限
・気道過敏性の亢進
・アトピー素因の存在
・気道炎症の存在
・他疾患の除外

「、、うーん、、、なんだか、結局よくわからない」と思われるかもしれませんが、このうち皆さんに覚えておいていただきたいのは、この1番上(喘息の症状)だけです。

 

もう少し具体的に説明すると、

・喘鳴(ヒューヒュー)、咳、呼吸困難、胸の圧迫感のうち、1つ以上症状がある。
・症状の程度や、症状が起きる時間がまちまちである。
・しばしば夜間や早朝に悪化する。
・運動、アレルゲンへの暴露、寒気などで誘発される
・ウイルス感染時(風邪など)に症状が出現・悪化する。 

などになります。

 

喘息の診断基準が明確でない分、診断にはこれらの症状がないかどうかを問診することが何より重要となってきます。喘息検査としては、呼吸機能検査(スパイロメーター)で気道閉塞の程度を調べたり、レントゲン検査で他疾患の除外を行ったり、血液検査で特定のアレルギーがないか調べることがあります。しかし、「喘息の診断」という点においてはあくまで検査は補助的な役割とされ症状やリスク因子を確認するのが最も大事になってきます。

ちなみに、検査の中で意外に大事なのは、「他疾患の除外」、でしょうか。というのも、咳の原因は喘息以外にもたくさんあるからです。私の記憶にあるのは、咳がずっと続くという患者さんが診療所(レントゲン検査がないところ)で喘息の診断のもと吸入薬を処方され、それ以降も改善がないものの検査もなく吸入薬で様子を見られ、それでもよくならないということで私の外来に来られ、調べたら肺がんだった、ということがあります。レントゲンを早めに実施していればもう少し早めにわかったのかもしれません。

ですので、検査が不要といっているわけではありません。検査も大事です。ただ検査するにしろ、しないにしろ、患者さんのお話にしっかり耳を傾けることが一番大事なんだと私は思っています。

 

話が長くなってしまいました。
今回はここまでとし、次回は喘息の治療についてお話したいと思います。

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