糖尿病③ 経口血糖降下薬 ~その1~|山の手内科クリニック|神戸市の内科、呼吸器内科、アレルギー科

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医療コラム

糖尿病③ 経口血糖降下薬 ~その1~|山の手内科クリニック|神戸市の内科、呼吸器内科、アレルギー科

「経口血糖降下薬」、いわゆる糖尿病の飲み薬についてお話します。

昨今、様々な薬が発売され、私も覚えきれないぐらいたくさんの糖尿病治療薬が存在します。

 

薬の作用別にそれらを分類すると

・ビグアナイド薬
SGLT-2阻害薬
DPP-4阻害薬
GLP-1受容体作動薬
SU
・α-GI
・グリニド薬
・チアゾリジン薬 

に分けられます。これまでお伝えしてきたように、食事・運動療法でも血糖コントロールが難しい2型糖尿病の患者さんに対して、これらの薬が適応になってきます。

 

① ビグアナイド薬:メトホルミン

メトホルミンは、肝臓での糖新生を抑え、消化管からの糖吸収抑制、末梢組織でのインスリン感受性の改善などの様々な作用により血糖降下作用を発揮します。薬が登場してから50年以上も経過している古い薬ですが、(心不全や腎不全、心血管疾患などの既往がなければ)最近の新薬を押しのけて今なお第1選択薬に位置づけられています。

 

特徴としては

・空腹時血糖と食後血糖を改善
・体重が増加しにくい
・低血糖を起こす可能性が極めて低い
・値段がとても安い!
・用量依存的に効果が出る

などが挙げられます。

体重が増加しにくい点は意外に大事な点で、肥満の2型糖尿病患者さんにも積極的に使用が可能です。もちろん、アジア人で多い非肥満の糖尿病患者さんにもしっかりと効果を発揮します。

 

一方、注意点としては、

・悪心や下痢・便秘といった消化器症状の副作用が出ることがある
・腎臓や肝臓が悪い人、高齢者では乳酸アシドーシスという副作用が出ることがある。
・ヨード造影剤使用前後48時間は内服を控える(乳酸アシドーシスのリスクのため)

などが挙げられます。

この乳酸アシドーシス、詳しい機序は置いておきますが、体に乳酸が蓄積することで発症する命にも関わる危険な合併症です。しかし、これを発症した患者さんは添付文書において禁忌や慎重投与とされている項目に該当する方がほとんどであり、注意して使用すれば基本的には問題ありません。適正に使用すれば安全性も高く、安価であることも大きなメリットと思われます。

 

 

② SGLT2阻害薬:スーグラ、フォシーガ、ルセフィ、カナグル、ジャディアンス

ここ近年、糖尿病薬として新規参入してきたのがこのSGLT2阻害薬です。この薬は尿が作られる過程で糖が再吸収されるのを阻害することで、尿に糖を捨てる排泄を促進し、血糖降下作用を発揮します。

 

このSGLT2阻害薬、血糖降下作用はもちろんですが、その他にも体重減少・降圧・脂質改善といった様々な効果も認められています。またインスリンを介さない作用であるため、低血糖をきたす可能性も低く、さらに心臓・腎臓の保護作用もあることが近年わかってきました(1,2)。まさにいいことづくしです。このような多面的な効果がどんどんわかってきており、今後の糖尿病治療薬の中心になる可能性が高いお薬だと思われます。

またこの心臓の保護作用に関しては、なんと糖尿病の有無に関わらずこの薬を使うことで心血管死や心不全増悪のリスクが有意に低下していたと報告され、心不全に対する新たな標準治療としても期待されています(3)。糖尿病の治療薬としての域を越えてしまったわけです。

 

このような様々な有効性が示され、SGLT2阻害薬は近年糖尿病治療薬としてのポジションが上がってきています。「そんなにいいことづくしなんだったら、もうとりあえず全員に使ったらいいんじゃないか」とも思ってしまいそうですので、この薬のデメリット・注意点も挙げてみます。

 

・尿路感染症・性器感染症のリスクがありそう
・脱水・頻尿の増悪のリスクがある
・正常血糖ケトアシドーシス
・薬価が高い
・用量依存的に効果が増すわけではない(けど増量すると薬価はさらに高くなる)

などです。(一つ一つの詳細な説明は省きます)

 

また、有効性を示す研究の多くが基本的にメトホルミン(①のビグアナイド薬)を使用している患者を対象にしている点も意外に大事な事実です。個人的には、薬価の問題もあるため血糖コントロールを目的にした場合にいきなり全員が最初から使用する必要はないものの、心不全や腎不全、血管病変などをお持ちの方は優先して使用する、という考えでいます。

 

またこの薬を使用している間は、尿に糖を出すわけなので、尿検査を行うと尿糖が陽性となります。びっくりしないでくださいね。体調が悪く食事が十分に摂れないときは、食事が摂れるようになるまでは休薬してください。

 

 

③ DPP-4阻害薬:シタグリプチン、ビルダグリプチン、アログリプチン、リナグリプチン、テネリグリプチン、アナグリプチン、サキサグリプチンなど

DPP-4阻害薬は日本で最も処方されている経口血糖降下薬です。

 

この薬の作用機序ですが、インクレチンと呼ばれるホルモンであるGLP-1GIP(血糖が上がった時にインスリン分泌を促す作用や、胃から腸への食物の排出を遅らせる作用をもつホルモン)を介して作用します。具体的には活性型GLP-1/GIPの濃度を高め、血糖依存的にインスリン分泌を刺激する、つまりは血糖値が上がった時に効果を発揮するお薬です。そのため、食後の高血糖が目立つ患者さんに良い適応となりますが、空腹時血糖もある程度下げる効果はあるようです。

 

また、この機序からわかるように、低血糖のリスクは低く、また体重も増加しにくい点もメリットの1つです。

 

医師側の目線から言うと、DPP-4阻害薬は「どんな状況であっても」血糖をそれなりに下げる「使いやすい」薬といえると思います。例えば腎不全があっても、肝機能が低下していても、インスリンを使用していても使うことができます。禁忌となる状況が非常に少ないのが特徴で、日本で最も処方されている点も個人的に頷けます。

 

一方、デメリット、、、というほどではありませせんが、これまでDPP-4阻害薬に関する複数の大規模臨床試験が行われてきましたが、いずれの試験においても心筋梗塞や脳卒中といった大血管症のリスク低下に関する有効性は実証されていません(4,5)。先ほどお伝えしたようにSGLT2阻害薬は心不全や腎不全、心血管疾患の患者さんに対しては血糖値の低下以上の効果が期待されるので、それらの患者さんに対しては処方する優先度は落ちるのかもしれません。

 

私見ですが、一般的な2型糖尿病に対する血糖コントロールにおいて、メトホルミンが処方できるのであればエビデンス・効果・薬価の点でメトホルミンに軍配が上がると考えています。その上で、SGLT2阻害薬か、DPP-4阻害薬を選択する、というケースが多いです。

 

逆に言うと、全2者が使用しにくいケース、例えば高齢の患者さんや腎不全の患者さん、ステロイドの使用中、周術期、など多くの場面で血糖値の安定に貢献してくれるため、実際の臨床現場では幅広く活躍してくれます。私自身も使用するケースが最も多いジャンルの薬かなと思います。

 

 

今回はここまで。

次回はSU薬から続けたいと思います。

 

 

  1. N Engl J Med 2015; 373: 2117-2128.
  2. N Engl J Med 2019; 380: 2295-2306.
  3. N Engl J Med 2020; 383: 1413-1424.
  4. N Engl J Med 2015; 373: 232.
  5. JAMA 2019; 321: 69.
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