糖尿病② 糖尿病の治療目標・食事と運動について|山の手内科クリニック|神戸市の内科、呼吸器内科、アレルギー科

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医療コラム

糖尿病② 糖尿病の治療目標・食事と運動について|山の手内科クリニック|神戸市の内科、呼吸器内科、アレルギー科

前回の続きです。

血糖コントロールをする際には、必ず目標値を決めます。

 

一般的な目標血糖値は、

HbA1c 7%未満
・空腹時血糖値 130mg/dl 未満
・食後血糖値 180mg/dl 未満

とされています。 

 

7%未満というと、5%とかもっと低い方がより良いのでは?と思われる方もいるかもしれませんが、前回お話したように下げすぎてもよくありません。しかし、全員一律に同じ目標で良いかといったら、もちろんそうでもありません。持病のありなし、年齢の違いでも目標は大きく変わってきます。

極端な話をすると、がんで予後が1~2年前後と予想される方にしっかりと食事制限や治療をして血糖値を下げても、そのメリットはほとんどないと考えられます。HbA1c 89%程度で数ヶ月~1年過ごすことになっても急激に細小血管症などの慢性合併症が進むわけではないため、その患者さんにとっては高いけど大丈夫(=糖尿病が生命予後に与える影響が少ない)といえることになります。

ですので、一般的に超高齢の方や、他疾患で予後が厳しい患者さんに関しては血糖コントロールを強化しても期待できるメリットが少ないため、HbA1c 7%以上でも許容することが多いです。

 

他に、治療強化したくても高血糖を許容せざるを得ない事もあります。例えば、患者さんが認知症などで自己管理能力が低下している、周囲のサポートが不十分である、アレルギーや経済的な問題で使用できる薬剤が限られている、など…。多少血糖値が上がっても良いので、持続可能な治療を選択せざるを得ないこともあります。いずれにせよ、「血糖値を見るのではなく、糖尿病患者さんを診る」ことが大事になります。

逆にもっと血糖管理を頑張れそうな方(低血糖のリスクがほとんどない方)はHbA1c 6%未満を目標にする場合もあります。この「6%未満」の有用性は介入試験ではまだ実証できておらず、絶対的に推奨できるものではないのが現状ですが、観察研究の結果からは正常に近い血糖値の方が糖尿病関連合併症の抑制などのメリットが期待できる可能性もあると思われます。治療目標は患者さんの治療のモチベーションにも関わってくるため、どこまで頑張るかは個別に相談が必要でしょう。

 

 

さて、糖尿病のコラムなので血糖値の話ばかりしてきましたが、治療の目標はあくまで血糖コントロールではなくその先にある糖尿病合併症の予防・生命予後の改善にあります。それを目指す上では、もちろん血糖値以外の項目にも注目する必要があります。具体的には血圧、コレステロールです。これらも一緒にコントロールしないと結局「頭隠して尻隠さず」状態となってしまいます。

 

これに関して、日本でJ-DOIT3という研究が行われました。これは高血圧や脂質異常症を合併した2型糖尿病患者さんを対象に、血糖だけでなくその他の項目も含めてぜ~んぶ治療を強化したらどうなるか?という研究です。従来の治療群(HbA1c<7%、血圧<130/80mmHgLDL-コレステロール<120mg/dl、中性脂肪<150mg/dl)と治療強化群(HbA1c<6.2%、血圧<120/75mmHgLDL-コレステロール<80mg/dl、中性脂肪<120mg/dl)で予後がどうなるか調べたところ、治療強化群で脳卒中などの脳血管イベントの発症が有意に少ないという結果となりました(1)

もちろんこの目標を患者さん全員に当てはめることなどできませんが、やはり包括的に治療する事は重要だと思われます。私の経験上、血糖値は結構意識して治療してるけど血圧や脂質には無頓着、という患者さんもおられたので、糖尿病の治療中の方、これから治療が始まる方は、なぜ糖尿病を治療するのかという目的をしっかり理解していただき、「頭隠して尻隠さず」にならないよう先生と相談して治療を進めていっていただきたいと思います。

 

 

次に、体重(BMI)の話をしたいと思います。皆さん、理想的なBMIはいくらぐらいだと思いますでしょうか?(尚、日本人はBMI25が肥満とされています)

最近、東アジアにおけるBMIと死亡率の相関をみたメタ解析(複数の論文のまとめ)が報告されましたが、それによると日本人ではBMI 2025程度が最も死亡率が低いと考えられています。つまり、痩せすぎ(BMI 20以下)も太り過ぎ(BMI 25以上)もよくないようです。ただし、年齢が進むとBMIが低いほど心血管リスクや死亡率が高かったようで、75歳以上の高齢の方は肥満よりもやせに注意した方がよさそうです(2)

 

 

お次は食事・運動(ダイエット)についてです。糖尿病の薬を飲む、飲まないに関わらずこの2つは糖尿病治療の基本になってきます。こちらに関しては予防医学のコラムで詳しく記載しようと思っておりますが、少しだけ触れておきます。

 

食事の適正な栄養摂取比率についてはこれまで様々な研究が世界で行われてきており、人種差でも適正な比率は多少異なるとされています。アジアの研究からは、炭水化物5060%、タンパク質1520%、脂質2535%ぐらいが一般的な日本人に勧められる栄養摂取比率と考えられています(3)。ですが数値で言われてもピンと来ませんよね。

この炭水化物の割合ですが、少なすぎても(=40%以下)多すぎても(=70%以上)、死亡リスクが高くなると報告されています。糖尿病の分野では「炭水化物ダイエット」という言葉をよく聞きますが、BMIと同じで「やり過ぎ」はどうやらよくないようです。

 

ところで、炭水化物と糖質の違いをパッと言えますでしょうか。炭水化物は「食物繊維」と「糖質」に分類されます。そして、エネルギー摂取や血糖コントロールに直結するのが糖質になります。当たり前かもしれませんが、糖尿病の食事療法ではこの「糖質」を取りすぎないことが大事になってきます。そしてその上で、もう片方の「食物繊維」をしっかり取ることが心血管やがん、死亡率の低下と関連していると報告されています。炭水化物摂取量とは関係なく、食物繊維は毎日20g/日以上の摂取が推奨されています。食物繊維をしっかり摂取することで急激な血糖値の変化を防ぐ効果もあります。

 

「まごわやさしい」という言葉、聞いたことがある方もおられるかもしれません。これは食物繊維が多く含まれる食べ物のゴロです。

ま:豆類
ご:ごま、ナッツ系
わ:わかめなど海藻系
や:野菜
さ:魚類
し:しいたけなどキノコ系
い:いも 

糖質のとりすぎには注意が必要ですが、「栄養成分の比率を気にして毎回ごはんなんか食べてられへんで!」という方もおられると思います。ですので、ざっくりというと、「糖質を必要以上にとらない、食物繊維(まごわやさしい)を必要以上にとる」ということをまずは意識して食事をしていただければと思います。 

 

 

最後に運動についてです。

運動療法のエビデンスをまとめた結果、ガイドライン上は「週に35回、中等度~強度の有酸素運動を2060分間行い、1週間に計150分以上運動すること」が推奨されています(4)。これもまた難しい表現ですね。

「中等度」ってどれくらい?というと、「ややきつい」と感じる程度の強度と考えてください。早歩き、軽いジョギング、水泳などが例です。この運動ですが、普段から運動習慣がある方でない限り、「さぁやってください」と言われて「はいわかりました」と実行できる方はなかなかいません。しかし、実は週1回の運動(weekend warrior)でも、食後に軽く歩くだけでも血糖値改善につながる可能性は報告されております(5)

 

この食事・運動に関して、一番肝心なのは、「意識して習慣化する」ことだと思います。「できるだけ階段をつかう」といった単純なことからでも構わないので、意識して習慣化してみて、そのうち本当に(意識せずとも実行するぐらいに)習慣化できればベストかなと思います。

(これは最近私が読んだ「ダイエットは習慣が9割(増戸聡司 著、プチ・レトル社)」という本の言葉をお借りしています。ダイエットに限らず、いい気付きがたくさん得られ大変参考になったので、個人的にオススメの本です)

 

さて、大変長くなってしまいましたが、今回はここまで。

次回からは具体的な糖尿病の薬の話をしていきたいと思います。

 

  1. Lancet Diabetes Endocrinol. 2017; 5(12): 951-964.
  2. 2016; 20; 388(10046): 776-86.
  3. 2017; 4; 390(10107): 2050-2062.
  4. Diabetes Care 2021; 44:S53-72
  5. JAMA Intern Med 2017; 177: 335
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