大腸がんは、肺がんに次いで死亡者数の多いがんです。日本人のすべてのがんの中で、大腸がんの死亡者数は男性3位、女性1位、全体で2位です。
原因としては、食事の欧米化の影響がまず指摘されています。衛生環境の改善でピロリ菌の感染者が少なくなり胃がんが減っている一方、食生活の多様化により大腸がんは増加している傾向にあります。
大腸がんの症状としては、
・大腸の通り道をがんが塞いでしまい、高度の便秘になる。
・出血により便が赤みがかった状態で排泄される(鮮血便)
・慢性的な出血によって貧血になり、めまい・ふらつきなどが起きる
などが挙げられます。
大腸がんの予防法としては、「便潜血検査」が有効です。大腸にがんができると、見た目ではわからない程度の血液が便にまじります。便鮮血検査の目的はこのサインを早めにとらえることにあります。便潜血検査を行うことで大腸がんの死亡率が20%程度低下した、という報告もあります1)。アメリカ予防医学委員会では、50歳以上からの便潜血検査についてはグレードA(強く推奨)となっています。
しかしながら、日本の国民生活基礎調査では便潜血検査の受診率は41%ほどと、約60%の人が便潜血検査を行っていません。手順も便を提出するだけで簡単なので、まだ受けていない人は便潜血検査を是非検討してみてください。
また、大腸内視鏡検査も有効です(当院では実施しておりませんが…)。直接大腸を見るので当然得られる情報量も多いのですが、注意点としては事前の準備が少し大変(前日から下剤を飲んで、当日も水分を朝から2Lほど飲んで腸を空っぽにする必要がある)ということでしょうか。
皆さんよく「ポリープ」という言葉を聞くと思いますが、これは単純に盛り上がって「いぼ」のように突出している腫瘍を指し、その全てががんというわけではありません。
しかし、大腸ポリープには良性から悪性まで様々な種類があります。基本的には「良性ポリープが悪性ポリープに変化する」ことはありませんが、例えば腺腫ポリープは「大腸がんの前段階」とも言われていて、この場合は切除した方がよいとされています。
よく大腸カメラの話をすると、「毎年大腸カメラを受けなければならないのか」と思う人もいるかもしれませんが、毎年大腸カメラを受けたほうがいいというエビデンス的なものははありません。費用や下剤などの苦労を考えると、リスクが特にない人が毎年行うのは便潜血検査のみで十分だと思われます。
ちなみに、アメリカ予防医学専門委員会では、大腸カメラは「10年以内に1回」を推奨しています。腺腫ポリープが確認されたり、家族に大腸がんの人がいたりする、などリスクの高い人は別ですが、一般的には「(できれば)毎年便潜血検査のチェックをして」「10年以内に1回は大腸カメラを受ける」という方法が、大腸がん検診の現段階での最適解の一つだと考えています。
最後に、皆様に覚えておいて欲しいことをお伝えします。
それは…
「男性の貧血には要注意!」ということです。
女性は周期的な月経のため貧血になりやすく、その結果「鉄欠乏性貧血」の状態となっている事が少なくありません。そのため貧血を指摘されても慌てない(鉄の補充で様子を見る)事が多いのですが、一方で男性は基本的に貧血になりにくいとされます。ですので、男性で採血検査にて貧血を指摘された方は、大腸がんなどによる「消化管出血の除外(=便潜血検査の実施)」が必須となります。
重度の貧血でしたらおそらくどの病院・医師でも「これはおかしい、すぐ検査を」となるでしょうが、ごく軽度の貧血では見逃されることもあるかもしれません。皆様、ご注意くださいね。
次に「前立腺がん」についてです。
前立腺がんは日本で徐々に増えてきており、男性のがんの罹患者数1位となっています。今後も増えていくことが予想されています。
主な症状は、
・前立腺がんが膀胱や尿道を刺激して頻尿になる
・おしっこの通り道である尿道が細くなり、おしっこが出なくなる、出にくくなる
・背骨の腰椎に転移しやすく、その際には激しい腰の痛みが出る
などです。
高齢男性にとても多い病気である「前立腺肥大症」と「前立腺がん」は、症状だけでは区別ができません。症状があっても「まあ年のせいか..」と様子を見る方も多いです。
罹患者数が急激に増えているこの前立腺がんですが、その一因として、「PSA検査の普及」が挙げられると思います。「PSA」は前立腺で分泌されるタンパク質で、前立腺がんで上昇するため早期発見のスクリーニングとして測定されます。実は、このPSA検査が急速に普及し、それに伴って前立腺癌の診断数が急激に増えたという背景があり、前立腺がんに「なる」数が増えたというより「発見される数」が増えた、というのが正しいように思います。
(尚、少し話が脱線しますが、検診等における腫瘍マーカー検査について、PSA以外は基本的に受けても無駄だと私は思っております。詳しくはまた次項以降でお話したいと思います。)
このPSA検査に関しては議論が分かれており、「推奨しない」という意見(日本厚生労働省)と、「した方がいい」という意見(日本泌尿器化学会)があり、決着はついていません。というのは、PSA検査の有効性(=PSA検査を行うことで前立腺がんによる死亡率が下がるというエビデンス)がまだ確立しておらずはっきりしていないことにあります2)。
「え?検査で早期発見される数が増えているんだったら、死亡率は減るんじゃないの?」と思われる方も多いと思います。私もそう思います。これは色んな要因がありそうなのですが、その一つとして前立腺がんの「進行の遅さ」が関わっていると言われています(早期に見つかってもPSAのフォローのみで経過をみられることもあります)。また、その他にもPSAはがんだけでなく、「前立腺肥大」や「炎症」でも上がることがある(=偽陽性)ことも無視できません。
このように判断が難しいところではありますが、前立腺がんが転移して命を落とす患者さんがおられるのも事実であり、私自身も腫瘍マーカーの中で唯一PSAは早期発見に有用と考えております。(当院の自費診療でも実施可能です)
さて、これまで3つの早期発見できるがんをお伝えしてきました。
次回は、予防・早期発見ができない(もしくは極めて難しい)がんをご紹介したいと思います。
- Evaluating test strategies for colorectal cancer screening: a decision analysis for the U.S. Preventive Services Task Force. Ann Intern Med. 2008 Nov 4;149(9):659-69.
- US Preventive Services Task Force. Screening for Prostate Cancer: US Preventive Services Task Force Recommendation Statement. JAMA. 2018 May 8;319(18):1901-1913.