早期発見できるがん①  肺がん|山の手内科クリニック|神戸市の内科、呼吸器内科、アレルギー科

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医療コラム

早期発見できるがん①  肺がん|山の手内科クリニック|神戸市の内科、呼吸器内科、アレルギー科

早期発見できるがん、1つ目は「肺がん」です。

 

私はこれまで呼吸器内科医として、数多くの肺がん患者さんを診てきました。 

無症状ですが運良く早期で見つかって手術へ進み再発なく過ごしている患者さん、見つかった時は治療もできないほど進行しており治療ができず緩和治療となった患者さん、進行していたけど抗がん剤が効いて長生きしている患者さん、抗がん剤が効いていてまだまだ頑張っていこうという矢先に治療の副作用で亡くなってしまった患者さん、、、。

同じ「肺がん」でも、症状、経過は本当に千差万別です。

 

2022年のがん統計では、がん死亡数1位のがんは「肺がん」です。(男女計で1位、男性で1位、女性で2位)

主な症状は、

・激しい咳が出たり、咳が長引く
・肺がんが気管支に浸潤し、血の混じった痰(血痰)が出る
・気管支の通り道ががんで狭くなり、喘息のようなピーピー音が胸で聞こえる

などです。 

原因の大多数は喫煙もしくは受動喫煙です。一番の予防は「禁煙」もしくは「喫煙者に近づかない」ことではありますが、皆さんも「たばこは体に良くない」ことはご存知のことでしょう。というか、「禁煙できたら苦労しないよ」というのが本音でしょう。

 

ここでは、禁煙以外の肺がんの予防医学についてお話します。

 

日本で推奨されている肺がん検診は「胸部レントゲン」です。毎年健康診断でほとんどの人が胸のレントゲンを撮影するでしょう。神戸市でも肺がん検診は行われています。

しかし、実はアメリカではレントゲンの検査で肺がんの死亡率が低下したというデータはありません1)。現にアメリカ予防医学専門委員会では、胸部レントゲン検診は推奨していません。また、痰を出してもらいその中に肺がんの組織がないかどうかを調べる「喀痰細胞診検査」もありますが、同じく海外では死亡率を下げるデータがありません。あとそもそもなのですが、検診のタイミングでうまく痰が出せずほぼ唾液の検体になってしまうことも多いです(泣)

日本では結核の予防のために年に1回の胸のレントゲンを実施することが一般化しています。その上で日本独自の研究結果から「胸部レントゲン検査を行い、肺がんリスクの高い人は追加での喀痰検査」が推奨されています2)。たばこを吸わない人であれば、ひとまずは胸のレントゲン検査だけで十分かもしれません。

 

現在、喫煙者にとっての肺がん検診として注目されているのが

CT検査(正確には低線量CT)」です。

55歳以上の方を対象にした臨床試験では、「CTを受けた人と胸部のレントゲンだけを受けていた人を比較した結果、CTを受けていた人の肺がんによる死亡率が約20%も低下した」という結果が出ています3)。胸のレントゲンだけでは発見できない肺がんをCTで細かく確認し、拾うことができるのです。

またたばこを吸わない人や、本数の少ない人へのCTの有効性については、日本で「JECS研究」という調査が進んでいます。有効性が証明されればCTがさらに広く普及し、肺がんの死亡者を減らせるかもしれません。

 

「早期肺がん」はレントゲンでは映らないようなふわっとした影(「すりガラス陰影」と言ったりします)で出現します。ただ経過は本当に様々で、年単位でじわじわ大きくなることもあれば、月単位で濃く、塊のようになってきてレントゲンでわかるようになることもあります。

一方、このすりガラス陰影には「炎症性結節」や「炎症性変化」と言われる、何らかの肺の炎症に伴い出現して勝手に消えていく(残ることもあります)がんではない影、いわゆる「放置しても良い、どうでもいい影」もたくさん含まれます。私の経験上は炎症性結節の方が遭遇することはずっと多いです。

 

早期肺がんについて「CTがいいなら、全員片っ端からCTをとったらいいじゃないか」と思われる方もおられたかもしれませんが、その際に問題となるのは、放置してもよい上記の「炎症性結節」が「早期肺がんの疑い」とされることで生じる過剰医療になるかと思います。具体的には、本当は実施しなくてもよい追加の検査や通院の負担、医療費、被ばくが増えること、などです。

このあたりは日本の医療費などの問題も関わってくるため、一般論として「こうした方がよい」と決まるのはまだ先でしょうし、はっきりとした意見は私自身持ち合わせていません。しかし、非喫煙者の肺がん患者さんにもたくさん出会ってきた私の経験からは、やはりCT検査は非喫煙者にも有効だと考えています。ですので一番大事なのは、そのような「ややこしい」陰影を医師が正しく判断し、適切にフォローすることだと考えています。

当院ではCTを併設しており、多数の肺がん症例を診てきた私と放射線科医2名で見落としを極力なくし、読影をできるかぎり正確に行うよう努めております。胸部CTをご検討、肺がんに関して不安がある方は一度ご相談ください。

 

最後にもう1つ、これは肺がんとは直接関係ないのですが、「喫煙中の高齢者」に受けておいて欲しい検査が「腹部超音波検査(腹部エコー)」です。あまり知られてはいませんが、高齢の喫煙者に起こりやすい病気に「腹部大動脈瘤」という病気があります。心臓から胸、お腹にかけて走る一番太い大動脈という血管の一部分が風船のように膨らんでしまい「コブ」ができる病気ですが、タバコによる動脈硬化によりこのコブができやすくなると言われています。コブが大きくなるにつれて便秘や腰の痛みが起き、もし破裂すると大量出血して死んでしまうこともある恐ろしい病気です。

この腹部大動脈瘤は、腹部エコーの検査で早期発見が可能です。そもそも65歳を超えてきた方(特に男性)がかかりやすい病気なので、タバコを吸っていなくても高齢者には受けてほしい検査です。

 

 

ということで、今回は早期発見できるがんでも「肺がん」に焦点を当ててお話しました。

当院としては、併設するCTを活用し、神戸市の肺がんによる死亡者を少しでも減らすことに貢献したいと考えています。

 

次回はその他のがんについてお話ししたいと思います。

 

 

1)The Prostate, Lung, Colorectal and Ovarian (PLCO) Cancer Screening Trial of the National Cancer Institute: history, organization, and status. Control Clin Trials. 2000 Dec;21(6 Suppl):251S-272S.

2)有効性評価に基づく肺がん検診ガイドライン. 癌と科学療法:34;481-501(2007)

3)National Lung Screening Trial Research Team,et al. Reduced lung-cancer mortality with low-dose computed tomographic screening. N Engl J Med. 2011 Aug 4;365(5):395409.

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