体に悪い食事とは① お酒|山の手内科クリニック|神戸市の内科、呼吸器内科、アレルギー科

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医療コラム

体に悪い食事とは① お酒|山の手内科クリニック|神戸市の内科、呼吸器内科、アレルギー科

さて、前回は体に良い食べ物についてお話しました。ここからは、体に悪いとされている食事についてお話します。第1回は「お酒」です。 

 

皆さん、お酒はお好きでしょうか?
私は日本酒が大好きなのですが、海外のビールにも最近ハマっています。(笑)

 

お酒との付き合い方は予防医学においてとても重要です。まず、アルコールの摂取はがんのリスクを上げます。米国がん研究協会の報告では、飲酒は口腔がん、咽喉頭がん、食道がん、乳がん、大腸がんのリスクを上昇させることが示されました。(1)

少量の飲酒は心疾患のリスクを下げる可能性があるという報告もありますが、上記のがんリスクのうほうが高いと言わざるを得ません。少なくとも、「少量・適量なら体にいいから飲んだほうがいい」といえる根拠はありません。

 

しかし、「そうですか。じゃあお酒好きだけど飲みません。」というのも違いますよね。(私を含め)お酒が好きな方にとっては、「健康のために今後お酒を一切飲みません」というのも極端で難しいでしょう。

 

アルコールは、いくらでも飲める人から、全く(1滴も)飲めない人まで、個人差が大きいです。特に注意が必要なのは、「飲んだらすぐに顔が赤くなるが、飲めなくはない」タイプです。

 

簡単に解説します。

アルコールは体内に入るとADH(アルコール脱水素酵素)により分解されて「アセトアルデヒド」という物質に変換され、これが顔が赤くなる原因となります。このアセトアルデヒドがALDH(アルデヒド脱水素酵素)という酵素により分解されると「酢酸」に、さらに分解され「水」と「二酸化炭素」になっていきます。

このALDHというアセトアルデヒドを分解する酵素ですが、実はALDH1とALDH2の2種類に分類されます。詳しい説明は省きますが、ほとんどの場合人間はALDH2を使ってアルコールを分解します。そしてこのALDH2の活性の強さが、どうやら遺伝子によって異なるようです。ADLH2の活性が弱いとアセトアルデヒドを上手に分解できず体にとどまってしまうため、顔が赤くなってしまいます。

このALDH2が非活性、つまり全く作用しない人はアセトアルデヒドを全く分解できないため、どんなに飲み会で鍛えてもお酒を飲めるようにはなりません。そしてこのアセトアルデヒドは発がん性があるため、分解されず蓄積すると咽頭や食道に留まり、がんのリスクにつながります。(2)

 

日本人では、約半数の人がこのALHD2の活性が弱いとされています。飲んだら赤くなる人は、自分の遺伝子を理解し、アセトアルデヒドが蓄積しないよう過度な飲酒は避けましょう。

 

また、顔が赤くならないから絶対大丈夫、というわけでもありません。アルコールをはじめに分解する酵素である「ADH」も遺伝子によって強い・弱いがあり、弱いとアルコール自体が分解されず体に蓄積します。この場合は顔が赤くはならないものの、アルコール自体による気分不良・吐き気が出現し、同じく発がんリスクにつながります。すぐに酔いやすい、気分が悪くなりやすい人は注意してください。

 

さて、少し真面目に解説しましたが、ではどれくらいの量ならお酒がOKなのでしょうか。

 

例えば膀胱がんに関して、約10万人の日本人を対象に行われた調査で、アルコール摂取量が週に150300グラムだとがんのリスクが上昇したという報告があります。(3)

アルコール摂取量の目安としては、アルコール20グラムがビール500ml、日本酒1合、ワイン200ml程度に相当するので、週あたりビール中ジョッキが10本、日本酒10合前後でリスクが上がってくるようです。この量が多いか少ないかはさておき、やはり少ないに越したことはなさそうです。

 

また、「飲み方」もどうやら大事なようです。

週当たりの飲酒量が同じだとして、週1回の会社の飲み会でたくさんお酒を飲む人と、晩酌で毎日ちびちび飲む人では、どちらが体に良いでしょうか? これに関して、約4万人を対象にした研究では、飲酒量が同じ場合、週1回大量飲酒する人と週37日かけてちびちび飲む人とでは、後者の方が心筋梗塞のリスクが3237%低下した、というデータがあります。(4) ストレスを貯めて一気に暴飲するよりも、普段からちびちび飲んでストレスを小出しにする方が体には良い?のかもしれません。

 

ただ、このあたりはエビデンス的にはまだ不十分であり、ひとまずはトータルの飲酒量を減らすのが確実です。休肝日を設けるのもありですが、逆にその反動で1回の飲酒量が増えて結局トータルの飲酒量が増えてしまわないように注意してください。

 

アルコールを全く飲まない生活は難しいと思います。少なくとも、すぐに顔が赤くなったり気分が悪くなる人、翌日までお酒が残りやすい人はご自身の遺伝子(ALDH2ADH)を理解して、適切な飲酒習慣を心がけましょう。

 

  1. Food, Nutrition, Physical Activity, and the Prevention of Cancer:A Global Perspective. Washington, DC, World Cancer Research, 2007.
  2. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2005 Aug;14(8):1967 71.
  3. Int J Cancer. 2017 Dec 15;141(12):2480 2488.
  4. N Engl J Med. 2003 Jan 9; 348:109 118
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