予防できるがん① 胃がん
日本人の胃がんの罹患率はがんの中で3番目に高く、罹患者数は2番目に多いです。昔と比べて数は減ってきてはいるものの、まだまだ身近ながんと言えるでしょう。
胃がんの初期症状としては
・胃で出血が起こり、出血した血が腸を通過する過程で変色し「黒い便」となって排泄される
・胃の存在するみぞおちあたりに痛みが出る
・胃の壁の伸び縮みがうまくできなくなり、早めに満腹感を感じる
などです。
胃がんは左の鎖骨のくぼみにあるリンパ節に転移しやすく、この部位に硬いしこりが生じた場合は胃がんがリンパ節に転移した可能性があります。これを「ウィルヒョウ転移」といいます。
胃がんの原因の大半を占めるのが「ピロリ菌」という細菌です。ピロリ菌はミドリムシのような形をしていて、胃酸を中和する能力を持っています。そのため「胃の中で生き続けることができる」という稀な性質を持っています。「とはいっても、菌ならいつかは殺菌されるのでは?」と思うかもしれませんが、侮るなかれ。ピロリ菌は長期的に胃の中に居座り続けることができ、慢性的に胃を荒らして炎症を起こします。そしてその慢性炎症が最終的に胃がんの発生につながるのです。
感染経路ははっきりわかっていません。しかし、昔の井戸水のような衛生環境が悪い水や食事から感染すると言われています。また食事の口移しなどによる親から子への感染の可能性も指摘されています。とはいえ、現在は昔と違って上下水道の衛生環境が格段に良くなっているため若者の感染率は下がってきており、今後さらに胃がんの患者さんは減ることが予想されています。
しかし、現在いわゆる「中高年」の年代の方にとってはまだまだ油断できません。年齢が上がれば上がるほど感染率が上昇し、40代では5人に1人、60代ではなんと2人に1人がピロリ菌に感染していると言われています。かく言う私(30代)も、昨年検査したところピロリ菌が陽性でした(もちろん除菌もしました)ので、30代でもやはり気をつけるべきだと思います。
ピロリ菌の検査は血液検査でもわかりますし、自宅でできる尿検査の検診キットなどもあり、誰でもすぐできます。胃痛や胃もたれなど胃炎症状がすでにある方は胃カメラ検査を早めに受けましょう(胃カメラは当院では実施できません。ごめんなさい(泣))。
もしピロリ菌感染が陽性と判明した場合は、抗生剤や胃薬をまとめて1週間飲むことで除菌が可能です。日本ヘリコバクター学会という(ややマニアックな名称ですが)学会のガイドラインでは「除菌治療は胃・十二指腸潰瘍の治癒だけでなく、胃がんをはじめとするピロリ関連疾患の治療や予防、さらに感染経路の抑制に役立つことから推奨する」となっています。
ピロリ菌検査が陽性だった方への注意点としては、「除菌をしたからもう胃がん検診を受けなくていい」ということではないことです。ピロリ菌が住み着いていた期間に胃を荒らし、すでに「慢性胃炎」が進行していることもあるからです。逆に、(現代の衛生環境では新たにピロリ菌にかかるリスクは低いと考えられるため)ピロリ菌検査を一度して陰性であれば、おおむね安心してよい、と言えると思われます。
予防できるがん② 子宮頸がん
子宮頸がんは若者だけのがんではありません。20代から50代まで幅広い年齢層が注意しなければいけないがんです。残念ながら、今後日本で子宮頸がんの罹患者は増えると予想されています。
その誘因となっているのが、2013年の「HPVワクチン接種差し控え事件」です。
HPVとは「ヒトパピローマウイルス」というウイルスの略称です。子宮頸がんの約95%はこのHPVが原因とされており、ワクチンが非常に有効な予防法になってきます。また、このHPVは咽頭がんや陰茎がんの原因になることもあり、アメリカやイギリスでは男性にもワクチン接種が推奨されています。HPVワクチンの接種で子宮頸がんの発症リスクが大幅に軽減、そしてHPVに関連したがんの発症を抑えるなど明らかな有効性が世界的に示されています。日本でも2013年の4月に満を持して定期接種がスタートしました。
しかし、大きな問題が生じます。接種後の中学生に、歩行困難や痙攣などの症状が出現したというニュースが大々的に報じられたのです。HPVワクチンへのネガティブな印象が世間に植え付けられ、厚労省は「今後はワクチン接種を積極的には推奨しない」という声明を発表。70%だった定期接種率が0.6%と極端に低下してしまいました。
しかし、先進国の中でHPV予防接種が普及していない国は例がなく、「打って当たり前のもの」と認識されています。2015年にWHOから何でこんなにHPVワクチンが普及していないんだ!と日本は名指しで批判されました。
世界では92カ国で定期接種が行われていますし、オーストラリアでは2028年までに新しい子宮頸がんの患者がいなくなる、といシミュレーションも出ています。
(その後、ワクチン接種と当時話題になった「けいれん」などの症状の間に因果関係はなかったと、名古屋市立大学公衆衛生学分野の鈴木貞夫教授が3万人のデータを解析して証明されています)
現在、日本でも定期接種が実施されており、小学6年生~高校1年生の女の子は無料で受けられます。それ以上の年齢の女性も、やや高額(2~3万円)ではありますが、自費接種も可能です。当院でもワクチン接種ができますので、対象の方は是非前向きにご検討ください。
予防できるがん③ 肝臓がん
「肝臓がん=アルコール多飲者」というイメージが強いかもしれませんが、このがんの最大の原因はウイルスです。日本人の肝臓がんのおよび90%が肝炎ウイルス(B、C型)によって引き起こされます。このウイルスがうつる原因は「他人との血液の交換」です。輸血や入れ墨、ピアスなどもリスクはありますが、ほとんどの原因は「性行為」です。コンドーム使用でリスクは大幅に低下しますが、相手が不特定多数ならリスクはさらに高くなります。
このウイルスの怖いところは、「誰が感染しているかわからない」点です。感染しても、残念ながら20~30年ぐらいは無症状なのです。そしてその間ウイルスは静かに肝臓に炎症を起こして肝細胞を破壊し続け、肝臓は肝硬変へ進行、さらには肝臓がんへ移行していきます。肝硬変からの5年間のは発がん率はなんと40%と報告されています。腹痛や黄疸などの症状が出ることにはおそらく時すでに遅し、、肝硬変や肝臓がんの状態になっていることがほとんどです。
肝臓がんに対する対策としては、「肝炎ウイルス検診」をおすすめします(神戸市・当院でも実施しています。当院HP(健康診断・各種検査)もご参照ください)。医療者など日常的に血液を扱う職業の人は普段から感染のリスクがあるので別ですが、多くの人にとって肝炎ウイルス検査は「一生に一度受ければいい検査」です。もし陽性だったとしても、ウイルス性肝炎の治療薬は現代では非常に進歩しており、C型肝炎なら飲み薬だけで治療もできます。
検査が陰性なら非常に安心できるので、コストパフォーマンスがよい検査だと個人的には考えていますが、対象者の3割程度しか検診を受けていないと言われており、残念ながら受診率はかなり低いのが現状のようです。採血するだけで手間もかからない検診ですので、まだ検査を受けていない方は早めに受診をご検討ください。
さて、今回は「予防できるがん」3つをご紹介しました。
〈まとめ〉
・胃がん 「原因の大半はピロリ菌。今すぐ検査を受けましょう」
・子宮頸がん 「HPVワクチンを打ちましょう」
・肝臓がん 「肝炎ウイルス検査を受けましょう」
次回は「早期発見できるがん」のお話をしたいと思います。