糖尿病① 糖尿病とはどんな病気か|山の手内科クリニック|神戸市の内科、呼吸器内科、アレルギー科

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医療コラム

糖尿病① 糖尿病とはどんな病気か|山の手内科クリニック|神戸市の内科、呼吸器内科、アレルギー科

さて、では糖尿病についてお話をしていきたいと思います。

糖尿病とは「インスリンの作用不足による慢性の高血糖状態」を主徴とする代謝疾患群です。
…なんだか難しい言葉ですね。

 

そもそもですが、血糖が高いと何が悪いのでしょうか? 

ある程度以上の高血糖が持続すると、口渇、多飲、多尿、体重減少といった特徴的な症状が出現します。しかし、これらの症状は血糖値が低下することでよくなります。

実は、糖尿病で怖いのは無症状のまま進行する合併症です。

糖尿病は神経や眼、腎臓に合併症が出るというのを聞いたことがある方もおられるかもしれません。一言で言うと、(前回のコラムでもお話したように)糖尿病は血管をボロボロにしていく病気と考えてください。3大合併症と言われている神経障害(し)・網膜症(め)・腎症(じ)といった小さい血管の病気(細小血管症「しめじ」)と、心筋梗塞・狭心症、脳卒中、末梢動脈疾患といった大きい血管の病気(大血管症)が代表的な血管の合併症ですが、いずれも血管がボロボロになった結果発症します。

 

さらに、糖尿病で怖いのはこれらの合併症だけではありません。糖尿病は多くの感染症やその重症化のリスクを高め、最近では新型コロナウイルス感染症の重症化につながることが報告されました。さらに、心不全やがんのリスクも増加させることが報告されています。

えっ、がんのリスクも!?と思われるかもしれませんが、観察研究の結果では大腸がん、肝臓がん、膵臓がんを中心にがんのリスクが上昇すると報告されています。さらに、加齢とともに認知症や骨折などの問題も増加しますが、糖尿病はこのリスクも高めます。

…もう何でもありじゃん、、と思うかもしれませんが、、、本当にその通りなのです。何でも起こります。糖尿病が発症や増悪に関与する疾患を上げるとキリがありません。

 

さて、このように何かとリスクが高い糖尿病、なりたくてなっている人はいません。食生活の欧米化が一因とは言われていますが、現状できている対策としては早期発見のために健診などを利用してもらう程度です。日本には特定健診(いわゆる「メタボ健診」と呼ばれるもの)があり、腹囲が大きく、高血圧や糖尿病などのリスクがある人に保健指導を行うという制度があります。しかし、そもそも指導を受けるように推奨されてもほとんどの人は指導を受けずに経過するので、ずっと現場では効果が疑問視されていました。そして残念なことに、メタボ健診でたとえ保健指導を受けてもほぼ効果がないことが、近年の研究でも報告されました(1)(泣)。

 

糖尿病患者は予備軍を含めると日本に約2000万人ほどいるといわれており、糖尿病診療は専門・非専門に関わらず全ての内科医が一定の知識を持って治療を行わないといけない状況になっています。当院でも治療は積極的に行っています(日本の糖尿病専門医のみでこの2000万人の治療をしていたら先生が先に倒れちゃいますよね)。

しかし、糖尿病に関して一番大事なのは患者さんの健康に対する意識と行動、つまり普段から食生活や運動習慣を意識して、予防や早期発見できるものはしておくことだと思います。そしてそのそのためには、正しい健康に対する知識をつけておくことが大事だと考えています。

少し話が脱線しますが、これは私の個人的な思いなのですが、(糖尿病に限らず)皆さんにはもっともっと自分の健康に意識を向けて過ごしてほしいと思っています。「健康」は生活の一番根底にあって一番大事なところです。健康だから仕事ができるし、遊びや趣味も楽しめる。しかし、健康は見えないし形もないので、ついつい軽視されがちです。失って初めてその重要性に気づくのですが、そうならないように皆さんには月に1回ぐらいでもよいので自分の健康を考える(もしくはかかりつけ医がある方は先生とお話する)時間を作ってもらいたいと思います。

 

さて、糖尿病の話に戻りますが、糖尿病の診断は主に血糖値とHbA1c (基準値5.5%以下)という1~2ヶ月の血糖平均値を示す2つの項目で決められています。

ざっくり言うと、空腹時の血糖が126mg/dl以上、随時血糖が200mg/dl以上、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT2時間値が200mg/dl以上、およびHbA1c6.5%以上というのが具体的な数値になります。

この基準を満たしていれば「糖尿病」となるのですが、実は糖尿病にもいろいろな種類が存在し、大きく4つに分類されます。それは

2型糖尿病
1型糖尿病
・妊娠糖尿病
・その他の疾患などによる糖尿病(遺伝子異常、膵疾患、肝疾患、内分泌疾患、ステロイドなど薬剤性など)

です。 始めにお話したように、人間の体の中で血糖値を下げることができるのはインスリンというホルモンだけで、これは膵臓のβ細胞というところから分泌されます。そのため、インスリンが出なくなっても、出てもインスリンが効きにくい状態(インスリン抵抗性)になっても血糖値は上がります。

 

上記の4つの糖尿病のうち、世の中のほとんどは生活習慣病でもある2型糖尿病で、これは肥満・運動不足などによる「インスリン抵抗性」が原因で起こることもあれば、純粋に「インスリン分泌不足」で起きることもあります。当コラムではこの2型糖尿病に関してお話していきます。(その他の1型糖尿病や妊娠糖尿病、他疾患による糖尿病についても今後触れたいとは思いますが、これらはインスリン治療などで厳格な血糖管理が求められることが多いため、個人的には糖尿病専門医による治療が望ましいと考えています)

 

さて、血糖値やら糖尿病やらと長々話してきましたが、改めて、血糖コントロールがなぜ重要かここでぱっと言えますでしょうか?

………そう!細小血管障害(しめじ)や大血管症(心筋梗塞や脳卒中など)といった合併症を減らすためですね!(笑)。ですが、次に出てくるのは「じゃあどれぐらい厳格に管理したらいいの?」という管理目標になるかと思います。血糖値が高い方が合併症が増えることは多くの観察研究からわかっていますが、血糖を下げれば下げるだけ合併症も減るのか?という問題です。

 

これに関しても様々な研究が実施されてきました。

1つ例を挙げると、HbA1c 6%未満の厳格な管理群と、HbA1c 7%台の標準管理群で比較したところ、細小血管障害(しめじ)の発症は減ったものの、大血管症の発症リスクは差がなかったという報告があり、その他にも複数の試験で似たような結果が報告されました。(2,3)

ですので少し残念な結果ではありますが、どうやら血糖値を下げまくればいいわけでもなさそうです。さらに血糖を下げすぎることで問題になるのが「低血糖」です。

 

低血糖は高血糖と異なり、その場で命に関わります。低血糖になると、動悸・振戦(ふるえ)・発汗といった症状が出現します。これは何とかして体の血糖値を上げないと!と交感神経が働くためなのですが、それがさらに激しくなると異常な血圧上昇、致死的な不整脈、意識障害などが出現し、最終的には死亡につながります。ですので、血糖管理では低血糖を起こさないように管理するのが大前提になります。

 治療中の方、これから治療予定の方は是非覚えておいてほしいこの「低血糖」ですが、症状の簡単な覚え方があります。

低血糖の「は・ひ・ふ・へ・ほ」

は:腹が減り
ひ:冷や汗が出て
ふ:ふるえが出て
へ:変にドキドキして
ほ:放置すると意識を失う 

です(無理矢理!?) 。これらの症状が出た方はすぐに治療中の病院やクリニックを受診してくださいね。

 

ということで、これらの研究や低血糖のリスクを踏まえ、現在一般的には 

「HbA1cの目標値は7.0%未満」

となっています。つまり、「HbA1c6%台」というのが目標になります。それ以上血糖を下げてもよくない(メリットはあまり変わらず、低血糖のデメリットが増える)わけですね。

ただ、これはあくまで一般論でして、当然患者さんによって目標値は異なります。40歳と80歳の方に同じ目標を設定しないのは何となくおわかりいただけるでしょう。

 

さて、少し長くなってしまいましたのでこの異なる目標設定、いわゆる「個別化治療」については次回にお話したいと思います。

 

  1. JAMA Intern Med 2020; 180: 1630-1637.
  2. N Engl J Med 2008; 358: 2560-2572
  3. N Engl J Med 2008; 358: 2545-2559
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