予防/早期発見できないがん 1つ目は膵臓がんです。
最も恐ろしいがんといっても過言ではないのがこの膵臓がんで、皆さんもあまり良くないイメージがあるのではないでしょうか。膵臓は体の中心に位置している臓器で、食べ物を消化するための膵液を分泌したり、血糖値を下げるインスリンというホルモンを作ったりしています。
なぜ膵臓がんが怖いか、それは「なかなか症状が出ず、症状が出る頃にはもう手遅れとなる場合が多いから」です。症状がなかなか出ない故に、膵臓は沈黙の臓器と呼ばれることもあります。膵臓がんを見つける有効な方法があればいいのですが、現段階では「大規模なデータとして明らかに有効」とされる検診方法は存在しません。アメリカ予防医学専門委員会でも、膵臓がん検診はグレードD(受けない方がいい検診)という判定をくだされています。発見が遅れるのが多いことも相まって、5年生存率は9%前後と、がんの中でも最も低くなっています1)。
このようになかなか厳しいがんであることは間違いないのですが、ではどのように警戒すればよいかというと、「膵臓がんが引き起こす症状」を覚えておくことかと思います。具体的に3つお示しします。
1つ目は「心当たりのない血糖値の急上昇」です。皆さんご存知のように、膵臓はインスリンを製造する「工場」の役割を果たしており、そのインスリンによって血糖値が正常に保たれています。この工場にがんができるとインスリンの分泌量が急に減少し、血糖コントロールが乱れたり、HbA1c(血糖値の平均値)が急に悪くなったりします。
2つ目は「お腹や背中の痛み」です。膵臓は「腹膜」という臓器の大半を覆っている膜の後ろ側(背中側)に位置している「後腹膜臓器」に分類され、ここに異常が起きると背中に痛みを感じます。(その他に、尿管や腎臓も後腹膜臓器であるため、尿管結石や腎臓の炎症が起きても背中の下、腰あたりに痛みが出ることが多いです。)
3つ目は「黄疸」です。全身が黄色くなったり、かゆくなったりする症状を指します。膵臓がんができると、膵臓を通過する「胆管」という管が詰まってしまい、胆管を流れる胆汁が鬱滞することでこの黄疸が出てきます。
この3つの特徴は、ぜひ覚えておいてください。また、膵臓がんのリスクは「肥満、糖尿病、喫煙、過渡の飲酒」です。ありきたりなものではありますが今一度、ご自身の生活習慣を見直してみてください。
予防/早期発見できないがん 2つ目は咽頭・食道がんです。
日本では、咽頭がん・食道がんの数は他のがんと比べるとそれほど多くはなく、罹患者数をみても上位5位には入りません。しかしこれらのがんに有効とされている検診はなく、初期症状が出たら早めに病院に行く必要があります。
この初期症状ですが、咽頭がんではのどと耳をつなぐ耳管という場所にがんができると耳が詰まった感じになります。また声帯にがんができると声がかすれてしまいます。咽頭がんの半数以上は声帯の一部分である声門にできると言われており、この症状は要注意です。
食道がんでは食道の内部にがんができて食事が接触すると胸の奥が「しみる」ような感じがしたり、ちくちくしたりします。さらにある程度食道がんが大きくなってくると、食べ物が簡単に食道を通過できなくなり「食べ物がつかえる」症状が出ることもあります。また、声を出すのに必要な声帯に作用する「反回神経」という神経にがんが転移すると、声がかすれることがあります。
まずはこれらの初期症状に注意していただきたいのですが、この咽頭がん・食道がんの最大のリスクは「飲酒・喫煙」と言われています。日本人を対象にした研究でも、例えば下咽頭がんにおいて、喫煙男性ではなんと13倍もリスクが上がったというデータがあり、過度な飲酒が合わさるとさらにリスクが上がっています2)。「毎日飲み会でタバコもスパスパ吸ってます」という男性、要注意です。
また、有効な検診はないとお伝えしましたが、「胃カメラ」でみつかるケースも存在します。上のようなリスクが高いと感じる方は、胃がん検診ではバリウムよりも胃カメラを選択した方がいいかもしれません。
予防/早期発見できないがん 3つ目は膀胱がんです。
膀胱がんも罹患者数は多くはないものの万人に有効な検診方法はなく、アメリカ予防医学専門委員会でも膀胱がん検診はグレードD(検査を推奨しない)となっています3)。しかし、膀胱がんはがんの中では比較的「治るがん」と認識されており、早期に発見できれば尿道から内視鏡を挿入し、がんの部分だけを切除することができます。
膀胱がんは膀胱の内側の壁にはりつくようにできることが多く、日常的に膀胱を刺激するので、トイレに行く回数が増えます。前立腺がんや前立腺肥大症と似たような症状ですね。(排尿時の痛みや腹痛が起きることもあります。)
そして最も一般的な症状は「血尿」です。目で見てわかるような赤い色のこともあれば、茶色がかっているだけのこともあり、「なんか色が変だな」と思ったら要注意です。あと、日本の健診では「尿潜血」検査も項目に含まれますが、これも膀胱がんの早期発見において万人に有効という明確なエビデンスは出ていません。ですが、やはり40歳を超えて尿潜血が陽性(2+以上)であれば、再検査を必ず受けた方がよいと思います。
また、この膀胱がんもやはり喫煙でリスクが上がるとされています。日本人のデータを対象にした分析では喫煙によってリスクが約2倍上がるとされています4)。「喫煙者」×「尿潜血陽性」の方は、早めに精査することをお勧めします。
さて、 以上が予防・早期発見ができないがんとなります。一言でいうと、タバコ・飲酒はほどほどに、体の不調は放置せずすぐに調べる!のが大事ということですね。(まとめすぎ?)
では最後に、見逃してはいけないがん共通の「3つの初期症状」についてお話ししたいと思います。皆さん何かわかりますでしょうか? それは
・心当たりのない体重減少
・熱が出たり下がったりする(腫瘍熱)
・体から血が出る
です。
がん細胞は宿主である人間のタンパク質や脂肪をエネルギー源として消費し、それに伴って体重が減っていくことがあります。「何もしていないのに半年~1年で体重の5%以上が減った」場合には注意が必要です。また、がん細胞からは色んなサイトカインと呼ばれる物質が出ており、熱が出ることがあります。原因がわからない熱(不明熱)がずっと続くので調べたらがん(腫瘍熱)だった、ということがあります。最後に、がんが大きくなるとがんそのものから出血するようになります。具体的には吐血、鼻出血、血痰、黒色便、鮮血便、血尿などでしょうか。生理や痔からの出血は別として、体から一定期間以上血が出続けるのは、「体に異常がある」サインです。ご注意くださいね。
(前回お話した、「男性の貧血には要注意!」もお忘れなく!)
さて、ここまでがんの予防医学に関して色々述べてきましたが、次回でがんのお話は最後になります。次回は腫瘍マーカーや検診における放射線被ばくについて少しお話したいと思います。
- Monitoring of Cancer Incidence in Japan – Survival 2009-2011 Report (Center for Cancer Control and Information Services, National Cancer Center, 2020)
- Yuquan Lu,et al. Cigarette smoking, alcohol drinking, and oral cavity and pharyngeal cancer in the Japanese: a population-based cohort study in Japan. Eur J Cancer Prev. 2018 Mar;27(2):171-179.
- Virginia A Moyer 1, U.S. Preventive Services Task Force. Screening for bladder cancer: U.S. Preventive Services Task Force recommendation statement. Ann Intern Med. 2011 Aug 16;155(4):246-51.
- Hiroyuki Masaoka,et al. Cigarette smoking and bladder cancer risk: an evaluation based on a systematic review of epidemiologic evidence in the Japanese population. Jpn J Clin Oncol. 2016 Mar;46(3):273-83.